比較対象の不在
上場株式の価値を決めるのは比較的簡単だ。また、バイデン大統領が提案した税制案において、多額の遺産を相続する際に必要とされる、死亡時における株式からの未実現キャピタルゲインの計算も、難しいわけではない。
しかし、米国の富の大部分は、個人経営企業で占められている。これらの資産価値の判定はきわめて主観的で、「Black Or White(白か黒か)」は明確に決められない。マイケル・ジャクソンのケースほど複雑になることはあまりないだろうが、それでも「Thriller(スリラー)」であることに代わりはない。そして富裕税では、死亡時だけでなく、毎年の査定が必要になるのだ。
例えば、ある人が独自の特許を取得してビジネスを始めたとする。この場合、まったく同じ製品を扱う人がいないので、比較対象が存在しない。美術品の鑑定に論争が尽きないのもそういうことだ。チェーンのレストランでさえ、シェフのイメージや評判が、ロケーションや料理の質に匹敵する重要要素になりうる。
評価の複雑さ
ホームズ判事は、271ページに及ぶ判決理由の中で、評価プロセスがいかに複雑であるかを説明している。同判事は、ユニークな資産を評価する方法を3つ提示した。
ひとつは、その資産が将来どれだけの収入を生み出す見込みかを計算し、その収入を現在の価値に換算して評価する方法。もうひとつは、死亡時に類似の資産が、相互に対等な取引を通して所有者が変わった事例と比較する方法。最後が、同等の資産を再度生み出すために必要なコストを算出する方法だ。
どの方法も正当なもので、どれも「Dangerous(危険)」ではない。しかしご想像の通り、それぞれの結果は大きく異なる。もちろん、マイケルの事例はとくに複雑だった。彼が子どもたちに性的虐待をしていたという疑惑が浮上した時、キング・オブ・ポップであり地球上でもっとも価値の高いブランドのひとつだったマイケル・ジャクソンの名は、一転して地に落ちた。一方で、マイケルの死後に、彼の音楽をベースにした映画やラスベガスのショーで巨万の富を築いた人々もいる。このように、彼の肖像権とイメージの価値は、莫大なものからいったん極小となり、その後も変化しつづけている。
これは極端な例かもしれないが、ビジネスの評価は常に変化しており、そのアップダウンを計算するのは容易ではないということだ。
富裕税に話を戻そう。大富豪への増税という発想は悪くないし、サンダースやウォーレンは、「Don’t Stop ’Til You Get Enough(十分になるまでやめないで)」と言うかもしれない。しかし、個人保有資産や無形資産の査定という、複雑な税務行政上の問題は存在する。議員たちは、租税裁判所に持ち込まれたマイケル・ジャクソンの遺産問題について、「Remember The Time(記憶しておきたい)」と考えるかもしれない。