3つめは、意思決定の承認が不要なことだ。上司を喜ばせるのでなく、会社にとって最善のアイデアを実行する。大半の企業では、ピラミッドの頂点に会長が君臨。地位が低い従業員は底辺に位置し、低予算の重要でない決定を下す。下位は、常に上位からの承認を必要とする。
一方、ネットフリックスの意思決定プロセスはヘイスティングスを「根っこ」とし、そこから幹が伸び、枝へと分かれる「木」と同じだ。彼が目標を定め、会社が向かうべき方向や留意すべき要件など、全体のコンテキスト(言葉で表されない情報・空気感)を定める。次に、「幹」であるトップレベルの幹部が部署ごとに、さらなるコンテキストを定め、そこから伸びている「枝」のマネジャーにバトンを渡す。そして、さらに上に伸びている「小枝」の「情報に通じたキャプテン」が意思決定を下す。キャプテンは幹部が示したコンテキストに基づき、契約締結など、大きな決定を下す責任を負っている。枝の数だけ成長する機会があるため、その可能性は無限大だ。
重要になる「柔軟な企業文化」
──従来の企業やスタートアップの経営陣が学ぶべき点を5つ挙げるとしたら?
まず、自社にとって、ミス防止とイノベーションのどちらが重要なのかを決めることだ。日本企業が留意しているミス防止文化は、メーカーなど、安全性重視の業界にはいい。だが、試行錯誤が必要なイノベーションには向かない。
そして、イノベーション重視と決まったら、従業員に自由を与えるためのステップを踏む。次がキーパーテストだ。チームに働きぶりが悪い従業員はいないかを考える。採用の際は、少数の優秀な人材を高給で雇う。こうして能力密度が高まったら、次はフィードバック文化の構築だ。そして、規定や承認の廃止など、組織の自由度を高めていく。
──逆に、従来の企業には実現が難しいと思われるものは何でしょうか。
ネットフリックスになれる企業はない。どの企業にも独自の文化がある。とはいえ、イノベーションや柔軟性を重視する企業は増える一方だ。特にコロナ禍では、環境に適応可能な企業と、そうでない企業の差がはっきりした。
今後は多くの企業が、指揮系統やコントロールという考えに背を向け、柔軟性・責任・コンテキスト重視の経営に移行するだろう。ネットフリックスにはなれなくても、同社のようなステップを踏めば、どの組織にも独自の文化が根づく。
在宅勤務の普及で、企業が組織の自由度を高めている。パンデミックが、柔軟な企業文化の大切さを教えてくれた。『NO RULES(ノー・ルールズ)』は、図らずもポスト・コロナ時代に向けて書いたような本に仕上がった。私たちを見えない星が導いてくれたのだろう。
エリン・メイヤー◎INSEAD教授。異文化マネジメントに焦点を当てた組織行動学を専門とし、異文化交渉、多文化リーダーシップについて教鞭を執る。世界の経営思想家ランキング「Thinkers50」にも選出。著書に『異文化理解力』(英治出版)、共著に『NO RULES』(日本経済新聞出版)。