世界の航空業界は、速度を追い求める時代から大量輸送時代へ移った。
そして、経済性と環境性能がより重視されるようになった今、長らく姿を消していた超音速機の開発が、再び始まった。
「オーバーチュア」26年に初飛行
6月3日、ユナイテッド航空は、Boom Supersonic社(ブーム)の超音速機、Overture(オーバーチュア)15機の発注などをしたと発表した。コンコルドが市場から消えて以降、超音速飛行の実現にぐっと近づいた瞬間だ。
ブームは2014年に誕生し、超音速飛行への挑戦を始めた。現在はデモ用に開発された「XB-1」の運用を開始しており、オーバーチュアは5年後の2026年に初飛行、29年には商用運航を始める計画だ。
速度はもちろん、環境性能も求め、炭素排出の少ない持続可能な航空燃料(SAF)を用いる。
高い意欲を見せるJAL
日本では、日本航空(JAL)がかねてから意欲を見せていた。1964年には、ボーイングが開発を進めていた超音速機を5機、翌65年にはコンコルドを3機、仮発注している。双方実現しなかったプロジェクトだが、JALの革新的な発想は昔から健在であったことがわかる。
2017年、同社は世界に先駆けてブームと提携。1000万ドル(約11億円)の資金を提供し、20機の将来の優先購入権を得るなど、超音速機が日本の空を飛ぶ可能性も高い。
日本の宇宙航空開発を担うJAXAでは、ブームのオーバーチュアに近いスペックの機体研究を行っている。航空システム研究ユニット長、牧野好和氏は「JAXAは研究者の立場から、市場調査の目的でブームを訪問したこともある。理想は国内メーカーとともに、超音速機の開発が進むことだ」と語る。
これを裏付けるように、JAXAは6月に発表したリリースで、JSR(Japan Supersonic Research)協議会を設置し、日本の総力をあげて、超音速飛行の国際共同開発に協力していくとしている。
超音速に挑戦する企業は他にもある。米国のAerion(アエリオン)社は小型ながら同様の超音速機の開発を行っていた。しかし、ボーイングとGEがパートナーでありながら、今年の5月に資金繰り悪化を理由に事業を停止した。
超音速ビジネスジェットを開発する「SPIKE」や「EXOSONIC」の名前も挙がるが、資金面などの点から見て、今のところ商用化の実現可能性が最も高いのはブームのようだ。
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