「異日常」がもたらす自己肯定感
『異日常図鑑』を編集しながら気づいたこと。それは「異日常」をもつことで、人は自分を好きになり、日常にもいい影響を与えるということ。
でも、ここで疑問が。これって、趣味のことじゃないの? 実は私たちもそう思っていました。でも、ちょっとだけ何かが違う。趣味として切り取ってしまうと大切な何かがこぼれ落ちてしまうのです。
例えば、あなたはギターを弾くことが好きだとします。「ギターが趣味です」と言ってみてください。言いました? すると話はギター好きで完結してしまいます。今度は「私はギタリストです」と言ってみてください。言いました? 照れずにもう一回。ほら、ふわっと気持ちが上がる気がしませんか。話はギターから「生き方」へと広がります。「自分はギタリストだから」というある種の自己肯定感が生まれ、ギタリストのカツラや服を買う消費行動によって経済活動が活性化します。
『ストーリーとしての競争戦略』などの著作で知られる楠木教授の「異日常」はロックベーシスト。
社会記号化した「異日常」も少なくありません。図鑑で取り上げた山ガールもそう。最近だとヨガに没頭するヨギーニなども典型的な例です。
ストレスが多い現代。心身ケアのニーズが高まるなか、ストイックに体を鍛えるのではなく、カジュアルにヨガを楽しむ方法が登場します。そして、ヨギーニという言葉が生まれ、自覚が芽生えます。習熟度は関係なく、「私はヨギーニ」と思うことで、ファッションや食べもの、習慣が変わり、日常生活も影響を受けていくのです。楠木教授は言います。成熟化した現代社会において、人の幸福度を上げ、経済の活性化を促すのが「異日常」である、と。
「異日常」という概念が紹介されている藻谷浩介、山田桂一郎共著『観光立国の正体』。
もし、あなたが日常にちょっと息苦しさを感じたら、「異日常」をもつことをオススメします。コツはカジュアルに始めること。そして「私は○○だ」と思い込むこと。もし「異日常マーケティング」に興味が湧いたら、ご連絡を。例えば「あなたは靴職人ですから、長く使えるものがお好きですよね。では、こちらはいかがでしょう」といったように、従来とは異なる発想のビジネスアイデアが出てくるでしょう。また、2つの世界を行き来する人が増えることで、イノベーションも起きやすくなるのではないか、なんてことも実は考えています。
廣瀬 大◎クリエイティブディレクター兼コピーライター。ロシア武術システマに取り組み、仕事は武術の稽古の一環。童話を書いたり、短歌を詠んだりすることも大好きで、異日常が人生を豊かにしてくれることを実感。
電通Bチーム◎2014年に秘密裏に始まった知る人ぞ知るクリエーティブチーム。社内外の特任リサーチャー50人が自分のB面を活用し、1人1ジャンルを常にリサーチ。社会を変える各種プロジェクトのみを支援している。平均年齢36歳。合言葉は「好奇心ファースト」。