転職先が決まっているかどうかに関係なく、大量の労働者が離職するという主張は、一見したところ若干無理があるように思えた。しかし、クロッツの主張は現実のものとなった。現在の米国では、労働者の離職が過去20年間で最も多くなっている。
米国労働省は、失業率の週次・月次データを発表しているが、あまり知られていない指標に、求人労働異動調査がある。経済学者がJOLTSと略称で呼ぶものだ。最新のJOLTS報告書を紹介したCNBCの報道によると、「経済がパンデミックによる落ち込みから急速な回復を見せているなか、4月の求人件数は930万件と、過去最高水準に跳ね上がっている」
求人件数の驚異的な回復について、不可解に思う人も多いだろう。今から1年前の米国は最悪の状況にあった。何百万人もの人々が職を失い、我々の前に広がる未来は、不安と恐怖の暗雲が立ち込める暗いものに見えていた。職に就いている人々はそこにしがみつき、身を潜めて感染の波が去るのを待った。
そして今、すべてが急速に変わりつつある。ホテル、レストラン、バー、製造業、旅行、コンサート、スポーツイベントなど、パンデミックで大打撃を受けた業種が、いまや求人の中心だ。求人があまりに多いため、企業は労働者を確保しようと、賃上げや契約金といったインセンティブを提供するほか、フレキシブルな勤務時間やリモートワークといった選択肢も用意している。ウォール街の投資銀行は、従業員にペロトンのエアロバイクやアップル製品を配り、多額の昇給やボーナスで感謝を示しつつ、引き留めに躍起になっている。
筆者はここ数週間というもの、ホワイトカラー、ブルーカラー、グレーカラーの多様な労働者をカバーする、大手求人サイトや採用プラットフォームのCEOや幹部と話してきた。モンスター、スナッグ・ア・ジョブ、アズナ、ハイアービュー、ハイアチュアル、リンクトインの幹部たちは異口同音に、労働者と企業に対する需要が激増していて、企業が求人にぴったりの人材を見つけるのはきわめて難しくなっていると述べた。
社会の雰囲気にも変化が起きている。私たちは、日常生活がいかに脆弱であるのかを身をもって学んだ。多くの人々が自分の人生を見つめ直し、この世界で過ごす時間は短いと悟った。大げさに言えば、存在意義を問い直す瞬間が訪れたのだ。人々は、自分がこれまでやってきたことは何だったのか、この先5年から25年にわたって同じ仕事を続けたいのかどうかを考え始めた。こうした内省の結果として、多くの人々が行動を起こした。