「自分のため」に未来を変える。参加型デモクラシーの旗手

15万筆以上。東京オリンピック・パラリンピック大会組織委員会の森喜朗元会長の女性蔑視発言があった翌日、ウェブサイトで再発防止策などを求める署名の呼びかけを始め、12日後に集まった署名の数だ。

発起人の能條桃子はこう話す。「自分たちが特にやらないといけない理由はないけれど、動ける人が動かないと見過ごされてしまうと感じ、次の日に始めました」。

能條が政治とかかわるようになったのは、大学2年生のときに、2017年の衆院選で候補者の選挙事務所のインターンをしてからだ。2週間の期間中に気づいたのは、「選挙活動をしている人にとって、若い世代が存在しない存在だ」ということ。選挙カーは高齢者の多い住宅街を回り、学生は無視。政策も高齢者ばかり意識している。

若い世代との断絶に危機感を覚え、若者の政治参加や社会制度について学ぼうと、若者の投票率が80%以上というデンマークへの留学を決意した。19年7月の参院選の際には、デンマークに留学中の仲間と、若者の政治参加を促す発信をNO YOUTH NO JAPANとしてInstagramで開始。たった2週間で1万5000人のフォロワーを集め、その後、団体化した。

団体として、個人として、積極的に発言や活動をしてきた能條に対し、ネット上で誹謗(ひぼう)中傷をしてくる人も少なくない。特に、今回の森元会長の署名活動ではひどかったが、ひるまなかった。「顔の見えない人に何を言われても、顔の見える身近な仲間が支えてくれます。それよりこれほど多くの署名が集まったことに驚きましたし、性別問わず、多世代が参加してくれたのがうれしかった」と顔をほころばせる。

能條が目指すのは、一人ひとりが社会に参加していると実感できる参加型デモクラシーが根付いた社会。

「全部自分のためです。そういう社会が私は生きやすいと思うし、そういう社会を次世代に渡したい。『なぜあのときやらなかったの?』って次の世代に思われたくないですよね。だから自分が動くんです」


のうじょう・ももこ◎1998年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学経済学部4年生。デンマーク留学をきっかけに19年7月にNO YOUTH NO JAPANをInstagramで立ち上げ、後に一般社団法人化。70人のメンバーと若者の政治参加を促進する。

文=成相通子 写真=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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