しかし、市民生活のプライバシーに直結するデータを扱う可能性があるにもかかわらず、運営主体であるSidewalk Labがデータを収集し、市民の承諾やデータ利用に関する意思確認を事前には行わない(拒否を意思表示することで利用が停止される)オプトアウト型のモデルであったことなどから、その問題点が指摘され続けていました。
そうした数々の考え方の齟齬や新型コロナウィルス流行下での予算不足などにより、2020年、トロント市での未来都市建設は頓挫を余儀なくされました。「データこそ新しい石油である」と言われて久しいですが、スマートシティにおいても流通するデータは最も重要な要素です。その価値の重要性が再定義される中、この事例は、スマートシティにおける“街の管理人”とはいかにあるべきかを問うものでもあり、プライバシーとデータ活用、スマートシティの姿やあり方の議論に一石を投じました。
海外でのブラウンフィールドの事例としてはアムステルダム市(オランダ)が代表例です。
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同市では、CO2排出削減を目的とした一般家庭へのスマートメーター設置などから始め、駐車場の空き情報をスマートフォンで確認できるシステムの構築、都市データのオープンデータ化による都市インフラの可視化、さらには、シェアリングビジネス黎明期から「シェアリングシティ アムステルダム」を標ぼうし、シェアリングビジネスに関するスタートアップの育成、と取り組みを拡大してきました。
ヨーロッパにおける先進的な“インテリジェント・シティ”を目指すアムステルダム市の取り組みは現在進行形であり、会津若松市とも情報や知見の共有といった連携をしています。
大都市と地方都市、それぞれのスマート化
ここまで、ひとくくりに「都市」としてきましたが、実態として大都市と小規模都市(地方都市)とでは市民生活や市政、地域経済における課題そのものが大きく異なります。
大都市の課題は人口集中による交通の問題が根強く、海外の大都市では防犯や治安、ゴミ処理、環境問題も最優先課題としています。
一方で、小規模都市(地方都市)においては人口流出(過疎化)、産業の衰退、市民の高齢化とヘルスケア、モビリティ(交通)関連サービスといった課題が深刻化しています。既存の生活インフラが維持困難となる中で、効率的な運用を実現するためにデジタルの力をいかに活用するかが主眼であるともいえるでしょう。
大都市ではビジネスとしてスマートシティに取り組むことが多く、サービス自体のマネタイズに向けた意識が強いですが、地方都市では自治体との地域社会の協働など、公共の色合いが強くなります。
さらに、地方においては、第1次産業におけるデータ活用での生産性向上もスマートシティのテーマとなっています。これは、国によっては増大する食料需要という、大きな社会課題に対応します。各種センサー機器によるリアルタイムデータから成長具合を精緻に捕捉し、品質、収穫量、などを向上させ、さらにドローンやロボットなどを使った省力化が推進されています。
一方、都市における食関連では、フードロス対策などに取り組んでいるミラノ市(イタリア)のケースもあります。食品廃棄物の削減と、貧困層の食料問題の解決を目指し、ミラノ市は産学官連携で取り組み、新しい流通モデルの仕組みやハブとなる拠点を開設しています。