国内ではファイザー、モデルナ、アストラゼネカのワクチンが承認され、当面はファイザー、モデルナ製が使用される一方で、国内ではバイオベンチャーのアンジェスや製薬大手・塩野義製薬などが臨床試験を進めている。
そんな中、東京大学医科学研究所の感染・免疫部門の石井健教授(ワクチン科学分野)は、第一三共と新型コロナワクチンの共同開発を進める。ファイザー、モデルナ製と同様にウイルスの表面にあるスパイクたんぱく質をつくるため遺伝情報を伝達する物質「mRNAワクチン」を国内で初めて採用した。病原体に合わせて素早く設計できる特徴がある。
石井教授は、新興感染症に備えるため、いちはやくRNAワクチンを使用したモックアップワクチン(模擬ワクチン)の開発を政府に提言し、2016年より研究を進めてきた。ワクチンの効果を高めるため一緒に投与される物質「アジュバント」や代替免疫療法の研究にも注力しており、新次元ワクチンのデザイン構想をもつ。
石井教授は、今後の鍵は「ヒト免疫の多様性の理解とワクチン設計にある」と指摘する。一体、どういうことなのだろうか。新次元ワクチンのデザインとは──。
一年遅れの日本の治験 今後は?
──まず、第一三共とのワクチン共同開発の現状について教えてください。
7、8年前からRNAワクチンの共同研究をしていましたが、2018年には政府から臨床試験のための予算をカットされ、今回のパンデミック前には治験まで進めることはできませんでした。ですが、研究自体は細々と続けてきたので、去年3月から日本の医学研究ファンドからサポートを受け、第一三共と東大医科学研究所で新型コロナワクチン開発を進めています。
ことし3月22日から臨床試験が始まり、1相/2相(第一段階と第二段階を同時に進めるもの)です。健康な20~60歳の152人にワクチンを打って安全性を確かめています。今年前半に終われば、第3段階の臨床試験に迅速に進むことを期待しています。それが無事終われば、厚労省に承認申請をする流れです。
実は第3相は、後発のワクチンはなかなかやりにくい現状があります。感染が実際に起きている地域でプラセボ(治験で使われる有効成分を含まない偽薬)とワクチンを半分ずつ数万人規模で打ち、数カ月間の変化をチェックしますが、ワクチン接種が進めば感染者数が減ると効果が分かりづらいためです。
去年は世界のメガファーマが治験を進めてきましたが、日本の現状は一年遅れの状況です。6月1日には閣議決定で政府が国産ワクチン開発から生産、買取りまでフルサポートをすることになったので、各メーカーがより速く進められることを期待しています。
──国産ワクチンが必要な背景と、今後超えていくべき課題とは。
ひとつは、国産ワクチンはパンデミックにおいて自国民を守る、国防につながるという意味があるということ。今回、そのリスクが露呈しましたが、国内で安全なワクチンが提供できる環境は必須だと考えます。
2つ目は、日本国内ではワクチンのマーケットは小さいですが、今回、中国やロシアなど世界の動向を見ると外交のツールになるということが認識されました。これまで日本では輸出しようと考えていませんでした。えぐい外交ツールではなく、ピュアな国際貢献のツールとして世界の健康を守り、公衆衛生を保つため輸出国になり得るのです。最近では製薬企業や行政機関にもこの考え方に賛同する人が増えてきたと感じます。