ビジネス

2021.06.06

木造都市をつくる! 「燃えない木」誕生の熱すぎる物語

シェルター代表取締役会長 木村一義

JR仙台駅東口。駅前ロータリーに面した一等地に、この春、地上27m、7階建ての「高惣木工ビル」が竣工した。高層ビルの工事は、騒音や工事車両の通行などの問題で周辺とトラブルが起きやすい。しかし、このビルに関しては苦情らしい苦情がなかった。設計・施工したシェルター代表取締役会長の木村一義は、その理由を「木造だと、優しい気持ちになるから」と分析する。

高惣木工ビルは、その名前から想像できるように、純木造の建築物だ。これまで鉄骨や鉄筋コンクリートと木を組み合わせたハイブリッドの高層建築はあったが、主要構造材に無垢材を使用する純木造の高層ビルとしては日本初となる。

「高層ビルの建築には大きなクレーンを使います。そのため広い場所が必要ですが、バス会社さんが駐車場をタダで貸してくれた。普通なら考えられない。みなさん木が好きなんです」

木の魅力をアピールしたいがゆえのこじつけに思えなくもないが、木村の熱弁を聞いていると本当にそんな気がしてくるから不思議だ。

もちろん周囲の協力だけで高層の純木造ビルが建つわけではない。大きな障壁になる要素が2つある。強度と耐火性能だ。山形の小さな建築会社が、どうやってこれらの障壁を乗り越えたのか。

まず強度から説明しよう。木造でも、太い柱を使えば強度は増す。しかし、柱に穴を開けて梁と組み合わせる在来工法では、太い柱もほぞ穴で一部が弱くなってしまう。そのため在来工法では建てられる大きさに限界がある。この問題を解決するのが、接合金物工法だ。柱と梁を木の加工で組み合わせるのではなく、金属部品で接合。在来工法に比べて部材の欠損が少なくなり、強度が増す。


いまや一般的になった接合金物工法だが、日本国内での先駆けは「KES構法」。柱と梁を木の加工ではなく金属部品で接合するため、在来工法に比べて部材の欠損が少なくなり強度が増す

シェルターは1974年、日本で最初にこの工法で建物を建てた。「KES構法」と名づけられた新工法で、現在に至るまで約2万棟の木造建築が建てられている。接合金物工法はその後他社も参入して、いまや一般的な工法になっている。しかし、木村にはパイオニアとしての強烈な自負がある。

「大手さんがまねしたことで市場が広がったことには感謝していますよ。ただ、最初に開発して、当時の建設省に工法認定してもらったのは私たち。中国に『井戸水を飲むときに井戸を掘った人の苦労を忘れるな』という意味の故事成句があるけど、井戸を掘ったのは誰だという思いはある」

アメリカが豊かになれた理由


確かに最初に井戸を掘るまでの道のりは平坦ではなかった。木村は工務店の4代目として生まれた。大学で建築を学んだあと、「豊かな国の秘密を探ろう」とアメリカに留学した。ベトナム戦争で米軍が撤退した時期だったために世相は退廃的だったが、豊かさの秘密はわかった。住環境だ。

「アメリカのいい住宅は、メンテナンスすると100年もつ。それに対して、日本の住宅は車や冷蔵庫と同じ耐久消費材で、20〜25年で資産価値がなくなります。数十年で建て替えていたら、民間に富が蓄積するわけがない。怒りを感じましたね」

日本で100年もつ住宅を建てるにはどうすればいいのか。答えが見つからないまま、留学はお金が尽きて2年強で終了した。しかし、帰りに寄ったパリの工業デザイン展示会で木村は出合う。その会場の奥には、あるコテージが展示されていた。鉄骨の柱と木の梁と壁は、金物で接合されている。これを応用すれば、数寄屋建築でも100年もつ家が建てられる。そう直感して、3日間通って目に焼きつけた。
次ページ > 新工法で社屋を建設

文=村上敬 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

連載

SGイノベーター【北海道・東北エリア】

ForbesBrandVoice

人気記事