ビジネス

2021.06.05

伝統産業を進化させる「外様クリエイター」

日本には、豊かな伝統産業が数多く存在している。何百年も前から綿々と続くものもあれば、工業化のなかで近代に生まれたものもあるが、現在まで残っているのは、少なからずその技術や文化に、誰かが愛するよさがあるからにほかならない。

しかし、時代はどんどん変わっていくものだ。後世に残すべき優れた伝統でも、残念ながら途絶えてしまうことがある。それは、社会にとって取り返しのつかない大きな損失といえるだろう。

この社会の財産をどう残していくか、という文脈でよく語られるのが、「クリエイター×伝統産業」という切り口だ。伝統産業の技術や特徴を生かして、クリエイターがいままでになかった新しい製品を生み出すことだが、スポット的なプロデュースはこれまでも数多く存在し、私も学生時代から注目してきたマッシュアップの一つである。

しかし、最近では、特別プロジェクトの枠からさらに一歩踏み込んで、クリエイター×伝統産業を軸にしたビジネスに挑戦する起業家が生まれ始めていることをご存じだろうか。外部からのサポート役としてプロジェクトに参加するのではなく、彼らは実際にスタートアップを立ち上げて、伝統産業にいまの時代のマーケット感覚やクリエイティブセンスを溶け込ませることを本業にしているのだ。

その一つが「goyemon」というブランドを展開するNEWBASICというスタートアップだ。この会社は、雪駄にエアクッションを入れてデザイン性を強調した「unda-雲駄-」という履物や、切子のデザインを取り入れつつ耐熱の技術も取り込んだ「Fuwan-浮碗-」というグラス製品などを生み出し、続々とヒットを飛ばして売り上げを伸ばしている。

創業者であるクリエイターの二人はまだ20代半ばの若手ながら、最先端のクリエイティブやテクノロジーの力をかけ合わせることで、日本のよい伝統をしっかり残していきたいと、勤めていた会社を辞めてNEWBASICを立ち上げた。

また、WAKAZEという日本酒のスタートアップも面白い。もともと大手コンサルティング会社に勤めていた創業者が、日本酒と出合って感動し、また自身が生活をしていた経験のあるヨーロッパでの日本酒のポテンシャルも感じて、世界マーケットでの浸透を目指したブランドを独自に立ち上げた。いまはパリに酒蔵をつくって、現地マーケットに完全にマッチさせるべく、「MASTERED IN JAPAN, MADE IN FRANCE」のコンセプトで事業を展開している。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=ichiraku / 岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN No.077 2021年1月号(2020/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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