自分の意見を聞いてもらいたいなら「信頼」を積み重ねろ
──制作現場では、どうやってチームの士気を保っていたのでしょうか。リーダーシップのとり方は?
大友:監督という仕事は、現場で手を動かす仕事ではありません。脚本を書き、作品の背骨になる思想や美意識、マナーやルールをしっかり決め込み、スタッフ全員に伝えていく。その方針に従って、実際に現場で手を動かし具体を創っていくのは、演技者である俳優、撮影者であるカメラマン、美術や照明、アクションチームや衣装メイクなど、さまざまな専門家たちです。それらの才能を結集し、作品のディテールと全体を形作っていくのが僕の仕事です。
スタンリー・キューブリック監督のように、レンズから画角まですべてを自分で決めて、作り込みたいという夢はもちろんあるんですけどね。でもそれを始めたら、きっといつまで経っても完成しない(笑)。われわれは、納期もコストも決められている中で、最高のものを生まないといけないので。そこは、局員時代の経験やノウハウが生きているのかなと思います。
佐藤:映画監督って、ビジネスの現場に置き換えるとCEOのような存在だと思うんです。大友さんはキャストやスタッフを信頼して、任せてくれるリーダー。任せられることで、1人1人の能力が最大限まで引き上がる。
共演したキャストもスタッフも、大友組でのパフォーマンスが一番良いんじゃないかと感じることが多いですね。大きな裁量をもたせてもらっているから「頑張らないと」という気持ちが沸き立つ。任せてくれる器の大きさが、リーダーとしての大切な能力だと思います。
大友:スタッフもキャストもとにかく信じる。託す。もちろん、盲目的に任せているわけではないんですけどね(笑)。
(c)和月伸宏/集英社 (c)2020 映画「るろうに剣心 最終章 The Beginning」製作委員会
大友:健くんの素晴らしいところは、自分がやるべきことに専心できるところです。これはできそうで、できないこと。人は誰でも、普通に邪心が入ってきてしまうので。
剣心であることに専心している佐藤健がいるから、年齢に関係なく、チーム全体が自分のやることをやろうというムードになっていく。僕が俳優に求めるのは、そういうところかもしれません。芝居は誰かの人生を演じるものなので、役柄についてどれだけ考えたのか、準備したかという思考量が確実ににじみ出てしまうんです。