玄米を現地で精米。何よりも「お米のおいしさ」を大切にしている(提供:おむすび権米衛)
世界で作られている米の8割はインディカ米で、日本米を含むジャポニカ米は2割と少ない。パラパラとした長粒種が好まれていたり、粒が大きく硬い中粒種が好まれていたりと、米の嗜好性は国によって違う。米を調理する際はスープやソースやスパイスや油脂類を入れて調理するのが主流で、日本のように水だけで調理する国は少ない。
それでも、海外でおむすびが習慣的に食べられているうちに、粘りが強く甘みがある「日本米としてのおいしさ」への感受性が生まれていることは、単純に「おむすび人気」の一言では片付けられない文化的インパクトだ。
ちなみに、日本では「手むすび」もおいしさの一つとなっているが、海外では型で作ったおむすびに比べて良いという評価は聞かないそうだ。手むすびは“おむすびネイティブ”だからこそ分かる良さなのだろう。海外で好まれるおむすびを通して日本の米食文化の独自性に気づくと、近年の日本の「米離れ」がより残念に感じられる。
おむすび権米衛の日本の店舗のイートインでは、おむすび1個に惣菜や味噌汁を組み合わせて食べる客を見かけることがある。一方で、谷古宇本部長によると、海外店舗では1人2〜3個を食べる客がほとんどで、1個の客はほぼいないという。近い将来、海外店舗が日本の店舗の売り上げを超えるのではないだろうか…と思っていたら、すでにそうなっていた。おむすび権米衛の国内外全店舗の売上ランキング(円換算)では、コロナ禍前の時点で海外3店舗がベスト10入りしていた。コロナ禍の3月の売り上げも、NJ店は3位、パリ店は5位にランクインしている。
「お米の消費拡大を加速させるためには、海外のほうがマーケットは大きい」と谷古宇部長。今後は国内100店舗、海外1000店舗の展開を目指している。
日本人が食べておいしいと思えるおむすびが海外でも喜ばれていることを嬉しく思う半面、日本では、近年、年8万トン、年10万トン、年22万トンと米消費量が減り続けている。日本の米を食べて日本の田んぼを守っているのはアメリカ人でありフランス人…そんな日がやってくるかもしれない。