住宅市場の過熱ぶりは供給が追い付かず、コロナ禍が終わっていないながらも、感覚的には2005年から2007年のリーマンショック前のような過熱感がある。それでもジェローム・パウエルFRB議長は、「まだ金利の引き上げを議論するには時期尚早で、緩和は続ける」と記者会見で述べ、市場には安心感が広がった。
過去にも、景気が回復するなかで住宅市場が過熱するという「リズム」はあったが、例えば1990年代前期から2000年代初期にかけてのドットコム・バブル以降、2007年から2008年にかけてのサブプライム問題が起こるまでがそれに当たる。
ただ、昨年から金融緩和で3度の給付金をバラまいたせいか、現在の経済回復基調の初動の段階で、すでに住宅市場へのお金の流れが過熱しているといった、過去とはまったく異なるリズムになっている。これはこの分野で長く仕事をしてきた私としても初めての経験だ。
今後のインフレ基調と住宅市場の過熱ぶり、そして金利の上昇タイミングにどう折り合いを付けていくのか。おそらく歴史的には初めてのテストケースになるような状況が生まれており、経済の舵取りは予想がつかない。
金融緩和ゆえに、前倒しに次のバブルを発生させてしまう「金融緩和の副作用」と言われる状況が現れ始めている。住宅市場の過熱が家具や消費財の購入に繋がるのは常で、経済回復に貢献し、さらには労働参加率が上がり、完全雇用に近づく方向に進んでいるのは確かではあるのだが。
経済活動は回復に向かっているものの、日中のオフィス街はまだ閑散としている。オフィスのスペースをすでに縮小してしまった会社も多いが、JPモルガン・チェースは、7月からオフィスでの業務を再開すると発表した。
コロナ禍によってDX(デジタルトランスフォーメーション)が進んだと言われてきたが、実際に7月1日以降、経済活動が全面回復となり、オフィスにどれだけ、どのくらいのペースで人が戻り、リモートワークと併用したハイブリッドのライフスタイルとどう折り合いを付けるのか、ニューヨーク市がそのテストケースとなるだろう。
もっとも7月1日以降、すぐに独立記念日(7月4日)の休みがあり、世の中は夏休みシーズンに入る。旅行客は増えてきても、本格的なビジネス街の回復は9月以降になりそうな気配ではある。
とはいえ、営業を停止してしまったレストランや小売店も多く、マンハッタンの商業空き物件は、数ブロック歩いているだけでもかなり目立つ。この穴埋めなどもどういうテンポで埋まって行くのだろうかと不動産を扱う仕事柄思ったりもする。
そう言えば、2008年のリーマンショックの直後に、ヘッジファンドの友人が「どこの国がいちばん先に景気が戻ってくると思う? アメリカだよ。アメリカの回復力(レジリエンス)はかなり強い。アメリカが動き出せば、世界経済も動き出す」と言っていたことを思い出す。
今回のコロナ禍でも、アメリカが世界の経済回復の起動力となり、政権も変わって再びグローバリゼーションの方向にベクトルが戻ってきている。ポストコロナの社会構造が、このアメリカで、そしてその経済活動の中心であるニューヨーク市で、世界に先駆けて現出してくるのではないかと考えている。
連載:ポスト・コロナのニューヨークから
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