変異株かどうかを判定するには、まず変異株を判別できるPCR検査をする。次に陽性であれば、ウイルスの設計図であるゲノム(全遺伝子配列)を解析して、英国型か南アフリカ型かブラジル型かを確定させるという規定が、厚生労働省からは示されている。
ところが、同省による4月21日の発表では、これまで国内で5916件が変異株PCR検査で陽性となったが、ゲノム解析が行われたのは1646件にとどまっているという。
新聞などが伝える感染者数は、PCR検査で陽性になった速報値である。一方で、神戸市では、変異株PCR検査で陽性となった916件全てをゲノム解析の対象として、ウイルス量が少なく分析できないものを除く784件を解析した。
なぜ、神戸市では変異株のほとんどをゲノム解析できているのか。その理由を神戸市健康科学研究所の飯島義雄所長に聞いた。
神戸市健康科学研究所は4月1日に神戸市環境保健研究所から改称した
──ゲノム解析とPCR検査はどう違うのか。「変異」とはどういうことか?
新型コロナウイルスの性質を決めるRNA(リボ核酸)は、約3万の塩基と呼ばれる4種類(ATGC)の化学物質が一列に並んでいる。その全てを文字列にして、ウイルスの違いや性質を分析するのがゲノム解析だ。
ヒトの細胞に入ったウイルスはRNAを複製して増殖していくが、このときにコピーミスが起こりやすく、例えば「AAT」だった箇所が「TAT」とAがTに置き換わる。これを「変異」と呼ぶ。この配列の違いを調べると、誰から誰に感染したのかさえ判ってくる。
一方で、PCR検査とは、約3万ある配列から特徴のあるごく一部、つまり、連続した約160塩基の中の60塩基に着目して、唾液などの中にこの配列があるのかを調べる方法だ。
──「変異」はよく起きるのか?
昨年1月に国内に入った武漢タイプの新型コロナウイルスはすぐに消えた。そのあと欧州タイプが拡大し、一度は収まったが、年末に再拡大した。ところが、今年2月から英国型と呼ばれるN501Yという変異を持つ変異株が増えている。
変異といっても、単にAがTに置き換わるのは高頻度で起きるのだが、変異してもほとんどのウイルスは生き残れない。だが、ウイルスに都合のいい変異が2週間に1度くらいの割合で起きて、そのウイルスが生き残っていく。それが感染力を強くするなど性質が変わったときに「変異株」と名付けられる。