日本はある意味、イノベーターのジレンマに陥っているともいえるでしょう。バスが定刻通りに来るのであれば、バスが今どこを走っているのかを知らせるアプリの有用性はそれほど高くなく、ミスが起こる頻度が低ければ、紙ベースの手続きにそれほど不便を感じることはないでしょう。ハンコやファックスなど、従来の「アナログな」システムを効率的に運用する能力に長けていたために、諸外国が、社会的課題に対処するために先駆けて取り組んできたデジタル・トランスフォーメーションに遅れをとってしまったのかもしれません。
このような状況下にある日本も、デジタル庁やその他の取り組みにより前進し始めています。平井卓也デジタル改革担当大臣は、政府が、民間企業の恒久的なデジタル改革を反映できるよう、意味のある変革を行う権限を持つことを約束しています。
変革に向かう都市
2020年5月、日本で「スーパーシティ法」が制定されました。この新たな法律は、都市のデジタルトランスフォーメーションに向けた官民連携を強化することを目的にとして定められました。
スーパーシティに選ばれた都市は、医療、教育、エネルギー、防犯、そして、自動運転車の開発・利用を含む交通などに、AI(人工知能)とビッグデータを導入していくことになります。
スーパーシティでは、地域のサービスとテクノロジーの連携に権限を持つ「スマートシティ・アーキテクト」を任命します。これにより、積年の課題であるサイロ化した各機関の協働関係の構築と、異なる行政管轄区域間におけるシステムのインターオペラビリティ(相互運用性)を確保することが可能になります。
国が方向性を打ち出す一方で、都市レベルでも変革に向かう動きが生まれています。
例えば、福岡市は、日本の公的書類に必要となる捺印を廃止し、デジタル手続きを可能にしました。加古川市では、ヨーロッパで生まれた参加型民主主義のプラットフォーム、「Decidim(ディシディム)」の導入が進んでいます。こうした変革の多くは、イノベーションと新しいテクノロジーの活用により組織的な障害を乗り越え、公共サービスを抜本的な見直しに取り組む自治体やパブリックセクターの若い世代リーダーによって推進されています。
パンデミック後の日本では経済回復が最優先されますが、このようなデジタルに向けたイニシアティブは、市民のニーズを満たすと同時に長期的に持続可能な成長を促す方法として考えられています。
・広島県では、政府主導でデータ交換プラットフォームが導入され、地域最適化のために10社以上の民間企業のデータが連携・分析されています。
・浜松市、加賀市、加古川市など、「G20 Global Smart Cities Alliance (GSCA)」のメンバー都市では、5Gやケーブルによる地域のブロードバンド無線アクセスの導入が始まっており、新しいインフラへの投資が加速しています。