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オキサイド代表取締役社長の古川保典。後ろに見えるのが単結晶の育成装置だ。オキサイドは、現存するほとんどの単結晶育成技術を保有する世界唯一の企業。 出来上がった単結晶は、手のひらほどの大きさで数百万円の値が付くものもあり、価値が高い。

「スモール・ジャイアンツ 2021」グランプリは、山梨が生んだ技術系ベンチャー、オキサイド。大手も軒並み撤退する市場で「絶滅危惧種」と呼ばれた男は、どうやって無限の可能性をつかんだのか。


最初の就職先である日立金属時代、古川保典はアメリカの国立研究所に驚かされたことがある。

ある商品を実用化する過程で、その研究所のもつ特許がネックになっていた。

「そのころは、よそがもっている特許は回避するものだと思いこんでいました。でも1年以上やっても回避方法が見つからず、これは交渉して使わせてもらうしかないということになりました」

カリフォルニアにある国立ローレンス・リバモア研究所へ足を運んで頼み込むと「ぜひ使ってほしい」と歓迎された。アメリカに会社を設立することが条件ではあったが、“我々は民間企業が有効利用するために研究をしている”というのが理由だった。

「へえ、国の研究所ってこういうところなんだと思ったんです」

それからしばらくして、古川は国の研究所に転じる。そしてその後、今度は培った技術を生かす立場に回るため、オキサイドを創業することになる。

携帯電話やパソコンに欠かせない半導体の検査装置や、がんの診断に使うPET(陽電子放射断層撮影)装置に不可欠な、光学単結晶と呼ばれる素材がある。そのトップメーカーがオキサイドだ。半導体検査装置向けでの世界シェアは95%(同社調べ)に達する。2021年4月には東証マザーズへ上場の見込みだ。

2000年に現在の国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)の研究員、つまり国家公務員だった古川が、新設されたばかりの国家公務員兼業制度を使って設立した。いまなら公務員の起業も珍しくないが、20年も前だから訳がある。

光ファイバーや光学ディスクなどの普及が見込まれ、光の時代と呼ばれた21世紀が目前だった。ただ、光の向きや波長を制御できる光学単結晶は製造が難しく、増える需要に見合った量産体制を整えられない。だから古川は高い品質の光学単結晶をつくれる技術を開発した。その技術は国の財産として国内のメーカーにライセンスされ、日の目を見るはずだった。

「『実用化したい』と5社くらいから話が来たんです。各社から一人ずつ研究者を派遣してもらって、1年間かけてノウハウを教えました」

国の研究者冥利に尽きるはずだった。しかし、どこもなかなか正式な採用をしない。理由は、投資額が大きすぎるから、様子を見てから参入したいから─要するに会社の事情だった。足踏みしている間に、注目されていた次世代光学ディスクの用途で、はるか後方からライバルが猛スピードで迫ってくる。青色半導体レーザーだ。

それまで、沢山の情報の読み書きやより小さなものの検出ができる、青色のような波長の短い光は、より波長の長い半導体レーザーと光学単結晶を組み合わせてつくり出すのが最適とされていた。しかし、後にノーベル物理学賞を受賞する赤﨑勇、天野浩、中村修二らによって新たに青色半導体の性能が急速に上がっていた。筑波大学大学院そして前職の日立金属時代から光学単結晶を研究していた古川は、その猛追を黙って眺めているわけにはいかなかった。

文=片瀬京子 写真= 佐々木 康 ヘアメイク=内藤 歩

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