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2021.04.01

内発的発展で尖った企業を輩出 コロナ危機こそ大阪「八尾モデル」から学べ

行政側のキーパーソンである八尾市の松尾泰貴(現友安製作所)。オープンファクトリーのオンライン配信からイベント登壇まで幅広くこなしていた。


大阪のものづくりはエンタメだ!


八尾市経済環境部産業政策課の係長であった松尾泰貴は、公務員らしからぬ行動力から「変態行政マン」の異名をもつ(2021年4月から友安製作所新規事業兼広報部リーダー)。かねて八尾の企業間のネットワークづくりに尽力してきた松尾は、18年に市内の中小企業経営者たちが交流し、アイデアを共有する「みせるばやお」(魅せる場、八尾)という拠点を駅近に設けて、子ども向けにものづくり体験のワークショップなども開いている。

任意団体から始まった「みせるばやお」は、20年8月に法人化、木村石鹸工業社長の木村祥一郎が代表を務める。当初の賛同企業は35社にすぎなかったが、現在は127社が会員となっている。

20年12月には、この拠点から生まれたアイデアで、近隣の東大阪市や堺市も巻き込んだ5市合同オープンファクトリー「FactorISM(ファクトリズム)2020 アトツギたちの文化祭」を開催。地域の“アトツギ社長”たちが中心となり、五感で体感できるような工場見学をメインに据えたイベントを企画したところ、累計来場者は約3000人、オンラインでの工場見学参加者は1116人を数える盛況となった。

ファクトリズム
ファクトリズムの実行委員長を務めた錦城護謨社長の太田泰造。近鉄八尾駅前の商業施設内にある、イノベーション推進拠点「みせるばやお」で。

地域ぐるみのオープンファクトリー自体は、新潟県の燕三条エリアや東京都大田区など、全国各地に先行事例がある。そこで八尾では、他の地域の事例を徹底研究したうえで、ものづくりをエンターテインメントとする「モノタメ」という切り口で、大阪らしさを打ち出すことにした。

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ファクトリズムでは、初めて工場見学を受け付けた企業も多かった。写真は、金属プレス加工を中心に手がけるチトセ工業。IoTを活用した新工場で3K(きつい、汚い、危険)のイメージを払拭した。

実行委員長を務めた錦城護謨社長の太田泰造は、意外なことを口にした。

「八尾はBtoBの製造業が多く、一般市民を工場に入れることに対して『面倒くさい、危ない、ノウハウが取られる』といったネガティブな声もありました」

確かにリスクはゼロではない。だが、ものづくりの現場を公開することで従業員がやりがいを感じ、仕事にプライドをもてるという側面もある。「実は社内向けのメリットも大きい」と太田は言う。

ファクトリズムを5市の広域連携で開催したのも、2025年大阪・関西万博を見据え、海外に大阪のものづくり、ひいてはモノタメの魅力を発信し、産業ツーリズムの誘客につなげたいとの思いからだ。まさに共存共栄の地域連携であり、「点だけでなく面で広げていく」考えだ。

藤田金属
持ち手が着脱でき、皿にもなる鉄フライパンなどアイデア商品を手がける藤田金属。工場の2階では商品を買うこともできる。

「平場の文化」で究極のシェアリングを目指す


「みせるばやお」という拠点ができたことで、八尾の企業間で、知識や情報、アイデアのシェアが生まれた。だが、太田にはさらに一歩進んだ構想もある。

コロナ禍で企業のDX化、テレワークが一気に広まり、製造業の現場は厳しい選択を迫られている。従来通り工場に従業員を出勤させるべきか? 過剰設備、過剰雇用になっていないか? 労働環境は変化の波に対応しているか? こうした課題を解決するために、太田は、企業間で人とモノ、すなわち従業員と設備のシェアもできないかと考えている。
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文=督 あかり 写真=苅部太郎

この記事は 「Forbes JAPAN No.081 2021年5月号(2021/3/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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