「歴史をさかのぼることで、いまの変化のスピード感やレベル感がはっきり見えてきて、いまの本質を理解することができるのです」
歴史的な観点で見ると、コロナは「いまの時代の不思議さ」を見せてくれるという。先進諸国はテクノロジーの進歩によって便利な社会を実現したが、同時に高齢化で社会的な弱さを増した。
「現代は、高齢化して弱い社会ですが、インターネットがあって、弱い人々を家に閉じ込めて守ることもできる時代。不思議な時代、狂ったような時代とも言えるでしょう。ただ、私たちが生きているこの時代がどれだけ狂気じみた変なものなのかという、その全体像を私たちが完全に認識することはおそらくできません。歴史的な観点というのは、私たちが生きている時代を一歩下がって見ることができるのです。そうすると、ちょっと冷めた視点から分析できるようになるのです」
さらにコロナで最も影響を受ける世代は若者だとトッドは断言する。
「今日ではコロナは高齢者が犠牲になる病気だとみんなが言っていますが、2100年になったころに、そのときの歴史学者たちが振り返って何を言うかというと、コロナは若い世代を壊した病気だと言うでしょう」
トッドは今年で70歳。新型コロナに罹れば重症化のリスクが高い。来週、救急搬送されている可能性だって十分にある。「冷たい分析のように聞こえるかもしれませんが、これが歴史の観点がさせる分析の仕方です。高齢者は重症化し、死亡するリスクが高い。では、それが影響を与えるのかというと、高齢者なので人口全体の構造への影響はほとんどないのです」。
それよりも深刻な問題を招くのは、若い世代がコロナのせいで家に閉じ込められていることだという。
「この危機によって犠牲を払わないといけないのは若者です。若い人たちが外出できず、自由に出歩けないでいる。このことで、彼らはこれから何十年という単位で影響を受けることになるでしょう」。
最後に、トッドは付け加えるようにマスクをする動作をしながら笑ってみせた。
「まあ、来週自分が救急病棟に入って、酸素マスクをされる瞬間に『大事なのは若者を救うことだ!』なんて言えるかどうかはわかりませんがね」
Emmanuel Todd◎1951年、フランス生まれ。パリ政治学院卒。英ケンブリッジ大学で博士号取得。専門は歴史人口学。76年の著書で旧ソ連の崩壊を予測し注目を集める。米国の衰退を指摘した2002年の『帝国以後』は世界的ベストセラーになった。イギリスのEU離脱などを予測。