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2021.03.22

狙うは遠隔医療業界のGAFA、米スタートアップが新たに資金調達

Getty Images

ミシガン州アナーバー周辺地域で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の陽性者数が急増し始めた2020年4月、ミシガン大学附属病院の病床使用率は100%に達した。大半の病院と同様に、同病院もパンデミックによる患者急増に対する備えが十分とは言えなかったが、それでも彼らは状況に一歩先んじるための手を打っていた。

偶然にも同月に、ヘルス・リカバリー・ソリューションズ(Health Recovery Solutions、以下HRS)が提供する患者遠隔モニタリングシステムを導入していたのだ。

特許が取得されたこのシステムは、ブルートゥース経由で患者のバイタルサインを記録し、動画やインスタントメッセージを通じて患者を担当医とつなぐものだ。このシステム導入によりミシガン大学附属病院は、リソースが逼迫していたにもかかわらず、2020年を通じて400人以上の患者に遠隔で対応することができた。

そしてHRSは2021年3月9日、シリーズCラウンドで7000万ドルの資金調達を完了したと発表した。LLRパートナーズ(LLR Partners)が主導した今回の資金調達ラウンドには、過去にHRSへの投資実績を持つエジソンパートナーズ(Edison Partners)も参加した。これにより、ニュージャージー州ホーボーケンに本拠を置くスタートアップであるHRSの総資金調達額は8600万ドルに達した。

この資金調達に先立つ1年間、HRSは急速に規模を拡大。従業員数は258%増の155人、売上も188%増の2350万ドルに達した。

HRSの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるジャレット・バウアー(Jarrett Bauer)は、「現時点で実績のある遠隔モニタリング・ソリューションが選ばれている」と指摘する。「これは、当社の業績が非常に順調な理由の1つだ。人々は、最も優秀だと納得できる企業を求めている」

現在34歳のバウアーは、Forbesの「30 Under 30」に選ばれた実績を持つ気鋭の経営者だ。バウアーがHRSの創業を決意したきっかけは、自身の祖母だった。心臓疾患で闘病生活を送っていた祖母は、病院に3回入院し、その結果、医療費の請求額は1万4000ドル以上に達した。

2012年、米ジョンズ・ホプキンス大学でMBAの取得を目指していたバウアーは、患者が病院でなく自宅で療養できるシステムの構築を始めた。これが、のちに発展してHRSになった。

バウアーは2019年、HRSがシリーズBラウンドで1000万ドルを調達した際のForbesの取材に対して、「どこから始めたらいいのか、当時の私たちはわかっていなかった」と語っている。「わかっていたのは、現状が問題だということ、そして最高の企業なら問題を解決できるということだけだった」

新型コロナウイルスの感染拡大とともに、遠隔医療による診察が急速に普及し始めた。米疾病予防管理センター(CDC)のまとめによれば、遠隔医療による診察件数は、2020年3月最終週には、前年同週と比較して154%増となった。

遠隔医療ブームと共に激しい競争も生じたが、HRSの利益率は低下せず、むしろブームは同社にとって飛躍の追い風となった。HRSは現在、全米で220以上の医療機関と契約を結んでいるが、それらのうち、今回のパンデミック期間中に同社の顧客になった機関は74にのぼる。今では2万人以上の看護師が、HRSサービスから提供されるログデータを毎日チェックしている。
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翻訳=長谷睦/ガリレオ

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