偶然にも同月に、ヘルス・リカバリー・ソリューションズ(Health Recovery Solutions、以下HRS)が提供する患者遠隔モニタリングシステムを導入していたのだ。
特許が取得されたこのシステムは、ブルートゥース経由で患者のバイタルサインを記録し、動画やインスタントメッセージを通じて患者を担当医とつなぐものだ。このシステム導入によりミシガン大学附属病院は、リソースが逼迫していたにもかかわらず、2020年を通じて400人以上の患者に遠隔で対応することができた。
そしてHRSは2021年3月9日、シリーズCラウンドで7000万ドルの資金調達を完了したと発表した。LLRパートナーズ(LLR Partners)が主導した今回の資金調達ラウンドには、過去にHRSへの投資実績を持つエジソンパートナーズ(Edison Partners)も参加した。これにより、ニュージャージー州ホーボーケンに本拠を置くスタートアップであるHRSの総資金調達額は8600万ドルに達した。
この資金調達に先立つ1年間、HRSは急速に規模を拡大。従業員数は258%増の155人、売上も188%増の2350万ドルに達した。
HRSの共同創業者で最高経営責任者(CEO)を務めるジャレット・バウアー(Jarrett Bauer)は、「現時点で実績のある遠隔モニタリング・ソリューションが選ばれている」と指摘する。「これは、当社の業績が非常に順調な理由の1つだ。人々は、最も優秀だと納得できる企業を求めている」
現在34歳のバウアーは、Forbesの「30 Under 30」に選ばれた実績を持つ気鋭の経営者だ。バウアーがHRSの創業を決意したきっかけは、自身の祖母だった。心臓疾患で闘病生活を送っていた祖母は、病院に3回入院し、その結果、医療費の請求額は1万4000ドル以上に達した。
2012年、米ジョンズ・ホプキンス大学でMBAの取得を目指していたバウアーは、患者が病院でなく自宅で療養できるシステムの構築を始めた。これが、のちに発展してHRSになった。
バウアーは2019年、HRSがシリーズBラウンドで1000万ドルを調達した際のForbesの取材に対して、「どこから始めたらいいのか、当時の私たちはわかっていなかった」と語っている。「わかっていたのは、現状が問題だということ、そして最高の企業なら問題を解決できるということだけだった」
新型コロナウイルスの感染拡大とともに、遠隔医療による診察が急速に普及し始めた。米疾病予防管理センター(CDC)のまとめによれば、遠隔医療による診察件数は、2020年3月最終週には、前年同週と比較して154%増となった。
遠隔医療ブームと共に激しい競争も生じたが、HRSの利益率は低下せず、むしろブームは同社にとって飛躍の追い風となった。HRSは現在、全米で220以上の医療機関と契約を結んでいるが、それらのうち、今回のパンデミック期間中に同社の顧客になった機関は74にのぼる。今では2万人以上の看護師が、HRSサービスから提供されるログデータを毎日チェックしている。