2017年にサンフランシスコで創業されたヒムズは、当初は勃起障害(ED)や脱毛といった問題に悩む男性向けに、医師によるオンライン診療と処方薬の自宅送付のサービスを提供。その後、女性版としてハーズを立ち上げたほか、独自の電子健康記録(HER)も開発し、オンライン薬局にも進出した。
現在は患者とともに約100種類の医療問題に対処している。共同創業者のアンドルー・ダダム最高経営責任者(CEO)は「医療システムの玄関口」になるのが目標だと意気込みを語る。
ダダムによると、ヒムズ・アンド・ハーズがこれまでに提供した遠隔診療はすでに300万回近くにのぼる。業界最大手テラドック・ヘルスの2020年の実績は260万回だが、この水準になるのに20年近く要していることを考えれば、驚異的な成長スピードだ。ヒムズ・アンド・ハーズは皮膚疾患や問題行動など、さまざまな専門サービスも提供している。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)によって、競合他社の需要が急増するなか、ヒムズ・アンド・ハーズは着実な成長を遂げている。2020年の売上高は前年比67%増の約1億3800万ドル(約143億円)で、会員約26万人からの経常収益が9割超を占めている。ただ、利益率は前年比で71%改善したとはいえ、まだ利益は出せていない。
ヒムズ・アンド・ハーズの最大の魅力はこれまで、ブランド・アイデンティティとミレニアル世代の間での人気だった。保険は受け入れておらず、もっぱら自己支払い(キャッシュペイ)を採用している。会員は月額約20〜30ドル(約2100〜3100円)の定額料金を支払えば、24時間・週7日オンラインで医師の診察を受けられ、ジェネリック医薬品を処方・配送してもらえる仕組みだ。
会社の成長にともない、ダダムは自家保険の雇用主や医療制度との提携といった、新市場にも目を向けている。また、保険会社との提携も計画しており、それによって抗HIV薬の「ツルバダ」のような高額な薬を提供できるようにしたいと考えているという。
ヒムズ・アンド・ハーズの薬局事業の8割超は処方薬が占めているが、ビタミン剤やシャンプーといった商品の店頭販売も続ける予定だ。同社はすでにターゲットなどの小売店での販売を始めている。
ヒムズ・アンド・ハーズは創業以来、同じくキャッシュペイモデルで男女別の事業を展開し、オンライン薬局も運営するロー(Ro)とよく比較されてきた。両社はここへきて、薬局にも進出したアマゾンをはじめ、テック大手との競争にさらされるようになっている。
それでもダダムは、スペースは十分あり、心配はしていないと話す。「デジタル医療分野のいいところは、4兆ドル規模の市場がまだテクノロジーに触れていない点です。向こう5〜10年で業界全体が再編され、消費者が主導権を握るようになるでしょう」