在日コリアン、アフリカ系にルーツを持つとみられる生徒や学校でいじめられている3人の少女たちが、差別やいじめを受けながらも、サッカーを通じて乗り越えていく姿が描かれた。SNSでは、感動や共感の声も上がった一方、日本人が人種差別をしているような構図であると捉える人もあり、ネット上では炎上の様相を呈した。
若者が社会に対して感じるモヤモヤについて、第一線で活躍する人や専門家にぶつけて、より良いヒントを探る連載「U30と考えるソーシャルグッド」。今回は、メディア文化論に詳しい大妻女子大学文学部の田中東子教授に、大学生を中心に活動するNO YOUTH NO JAPANのメンバーが、昨年11月に公開された米スポーツ用品メーカー・ナイキのCMを巡る賛否に対する疑問から、広告の未来と受け取る側のあり方を聞く。
(前回の記事:BBCレポーター大井さんに聞きたい!キャリアと子育てのこと)
U30世代の私たちは、このCMの炎上現象にモヤモヤを感じた。なぜナイキはあえてメッセージ性の強い広告を打ち出したのか。情報過多の時代となったいま、受け手である私たちに求められていることは何だろうか──。田中教授と一緒に考えたい。
当たり障りない広告に一石を投じた、ナイキのCM
NO YOUTH NO JAPAN 続木明佳(以下、NYNJ続木):さっそくですが、ナイキのCMはなぜこれだけ反響があったのでしょうか。田中先生は「日本の他の広告と一線を画していた」という点についてどのように分析されていますか。
田中東子(以下、田中):注目された理由のひとつは間違いなく、オンライン時代だから。SNSがなければここまで一気に盛り上がらなかったと思います。メディアのコンテンツについてただちにコミュニケーションをとることができるオンライン・テクノロジーの進歩は、広告を巡る大きな環境の変化ですね。
もうひとつは、横並び意識の強い日本の広告業界で、前衛的でメッセージ性がとても高い広告であったことです。日本には、より広く、より多くの人に共感してもらえるような、言葉は悪いけれど、当たり障りのない広告が多いです。
NYN続木:では、そのような日本で、どうしてナイキはあえて強いメッセージ性を持った広告を出したのでしょうか。どんな意味や狙いがあるのでしょうか。
田中:ナイキは日本国内のドメスティックなブランドではないのが一番大きいですね。アメリカではすでにジェンダー不平等、人種差別のような社会問題が広告に取り入れられています。そういったメッセージ性をCMに込めることで、社会問題に取り組んでいる企業であるというブランドをつくりあげているのです。ナイキはその姿勢を日本に導入したのだと思います。
きっかけのひとつには、やはり大坂なおみ選手の活躍が大きいですね。彼女の人種差別に対する活動が日本で好意的に捉えられていることを踏まえ、今ならああいった広告を日本で出せると踏み切ったのではないかと、メディアを分析する立場から考えています。