経済・社会

2021.03.11 07:15

福島第一原発事故10年は「節目」ではない M7.3福島県沖地震が私たちに突きつけた現実

福島第一原発の事故現場は、むしろ新たな施設やタンクが次々と建設されている(Getty Images)



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日本原子力学会の廃炉検討委員会は20年7月、レポートを公表した。福島第一原発の廃炉作業が終わり、敷地を再利用できるようになるまで最短で100年以上かかる、とそこで示した。つまり、「最短」でも21世紀中には終わらない。しかも、この試算は1~3号機でデブリ(推計で880トン)を全て取り出した時点を「起点」としている。実際にはこの起点に立つことさえ、極めて難しく、何年かかるのか具体的には見通せない。

政府と東電は、すでに廃棄物の問題にぶつかっている。1000基超のタンクで保管が続いている汚染水を浄化処理した後の水だ。放射性物質トリチウムを主に含む汚染処理水は、海洋放出処分が有力視されている。当初は東京五輪前にも、政府が処分方針を決定すると見込まれていた。

しかし、漁業関係者は「風評被害が避けられない」と強く反対しており、方針決定の時期は見通せない。政府と東電は「科学的には安全」と説明しているが、「タンク容量が足りなくなる」と処分を急ぎたい東電に切実さがない。事故後、東電は地元住民と向き合ってきたのか。この10年で信頼関係が築けなかったことへの自覚が足りないように思える。
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メルトダウンした2号機原子炉圧力容器直下の映像。足場が脱落し、上部には制御棒の駆動装置が確認できる。(国際廃炉研究開発機構提供)

東電と政府は、できること/できないことの整理を


福島第一原発の廃炉に向けた事故収束作業は、長く、険しい。このことは、どのメディアも伝えているし、政府と東電も認めている。2020年は世界中で新型コロナウイルスが蔓延した。東日本大震災からの「復興五輪」とうたわれた東京五輪・パラリンピックは延期となり、今や五輪は「コロナに打ち勝った」ことを示すイベントに変わった。被災地で取材していると、「五輪、本当にやるんか?」「おれらには関係ねえ」と、しらけた声が多く聞こえる。

新型コロナ禍による影響は、事故収束作業も無縁ではなかった。作業員の移動は制限され、新規に入る人はPCR検査が必要となった。現場では感染者が出たものの、集団感染には至らなかった。一方、2021年中に予定していた2号機原子炉に残るデブリの採取は1年延期。英国でロボットアームの動作確認が遅れたためだ。春から、日本に搬入して試運転を始める予定だ。

ただ、その予定が順調に進むか分からないことは、この10年が証明している。福島第一原発の事故収束作業の取材では、ある前提を置く必要がある。「東電や政府の示す計画通りには進まない」。3、4号機では使用済み核燃料プールから核燃料を敷地内の共用プールに移し終えたが、3号機だけみても当初の開始予定よりも4年4カ月遅れた。通常の発電所ではなく、事故現場では高い放射線量が作業の行く手を阻み続けている。これは、どうしようもないことだ。


福島第一原発の事故収束作業の工程 (東京新聞より引用)

政府と東電は中長期ロードマップを見直して、できることと、できないことを明確に区別する必要がある。原子力規制委員会の調査では、2、3号機の原子炉格納容器の上ぶたは、デブリ並みに汚染されていることも判明。規制委の更田(ふけた)豊志委員長は「格納容器底にあるデブリが、高いところにもあるようなもの」と、廃炉に向けた作戦を練り直す必要があると指摘した。2021年時点の私たちの社会の技術では、まだまだクリアできない問題が数多くある。

その現実を突きつけているのが、福島第一原発という事故現場なのだ。原発事故から10年、福島県の避難民はなお約3万5000人。その4割以上が首都圏で暮らしている。

福島第一原発
東日本大震災から10年。福島第一原発の現在の姿から私たちは何を感じとるだろうか?(Getty Images)

文=小川慎一

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