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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

驚異的天才と知的障害者の二つの人生を往復した人間の悲哀を描いた、SF小説の名作『アルジャーノンに花束を』。

その著者ダニエル・キイスに、もう一つの名作『24人のビリー・ミリガン』がある。

これは、精神科医によって24の多重人格を持つと診断された実在の人物、ビリー・ミリガンについて書かれたノンフィクションであるが、この多重人格は、一般に、精神の病であり、我々の精神活動にとって、悪しきことであると思われている。

それを象徴するのが、人を批判するときに使われる「あの人は二重人格だ」といった言葉であるが、しかし、実は、我々は誰もが、自分の中に幾つもの人格を持っており、無意識に、そして当たり前のように、それらを使い分けている。

例えば、会社では辣腕のマネジャーでありながら、自宅では子煩悩の優しい父親、高校の同窓会に行けば冗談好きの楽しい仲間といった人格が現れるということは、決して珍しくない。

筆者自身も、仕事においては、場面に応じ、専門家的人格とビジネス的人格を使い分け、リーダー的人格と参謀的人格も使い分けている。また、講演でも、講義調、講話調、講談調、漫談調など、色々な人格での語りを使い分けているが、読者の中にも、仕事と生活の様々な場面で、そうした人格の使い分けを行っている人は、決して少なくないだろう。

それにもかかわらず、自己の内に「様々な人格」を持つことが精神的な病であるとされるのは、ビリーのように、ある人格になったとき他の人格が行ったことを自覚しておらず、その無自覚の人格が異常な行動に走ったり、罪を犯したりするからである。

その状態に陥らなければ、むしろ、自分の中に「様々な人格」を持っていることは、我々の中から「様々Fな才能」が開花する可能性に繋がっている。

なぜなら、実は、「才能」と「人格」は、深く結びついているからである。

例えば、世の中では、しばしば、「彼は、性格的に、この仕事に向いていない」という言葉が語られるが、この言葉は、職業人としての才能が開花するか否かは、その人物の性格や人格が大きな要素になるとの認識を示している。

一方、「彼女も、この仕事のプロらしくなってきた」といった言葉が語られるように、我々は、新たな性格や人格を、後天的な努力で自分の中に育てていくことができる。

従って、我々が、営業職ならば「社交的な人格」、企画職ならば「創造的な人格」、経理職ならば「几帳面な人格」など、その職業において求められる人格を意識的に育てていくならば、職業人としての才能を大きく開花させていくことができる。

文=田坂広志

VOL.58

「ポジティビズム」の時代

VOL.60

「無」と「空」の持つ力

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