だが、これらを束ねているのは「人」だ。視聴者へ「感動」を送り届けるリレーは「企業文化」から生まれており、それは同社が20年間かけて育んできたものだ。意欲的な社員が作るコンテンツだけが、視聴者を感動させられる。
「人の心を動かすチーム」はどのようにして育てるのか。ネットフリックスの共同創業者兼共同CEOが、その秘密を明かす。
世界中の視聴者に娯楽を提供し続ける、ネットフリックス共同創業者兼共同CEOのリード・ヘイスティングス(60)。彼は取材の日、息子が使っていた子ども部屋で一人パソコンの画面に向かっていた。じつは、ここは彼にぴったりの仕事場かもしれない。
というのも、ヘイスティングスが率いる世界的なイノベーター軍団は、家庭用エンターテインメントに革命を起こしてきたからである。ハリウッドではオフィスは成功の象徴の有無や華やかさで評価される。しかしシリコンバレー出身のヘイスティングスは、データの分析のほうを重んじる。装飾よりも機能性に価値を見出すのだ。
ネットフリックスは今、あらゆる点で“機能”していると言えるだろう。2020年上半期だけで19年の通年とほぼ同数の新規顧客を増やし、会員数も190カ国で2億人近くに拡大。収益も売上高は前年比25%増、利益は2倍以上の増益、株価は50%も上昇している。
この好結果は、数値データを分析・活用することで生まれてきた。まさに、ハリウッドとシリコンバレーの理想的な融合である。それにより、視聴者の嗜好をよりよく理解したコンテンツを作れるのだ。
米カリフォルニア州ロスガトスにあるネットフリックスの本社。エンターテインメントの中心地ロサンゼルスから距離のあるシリコンバレーに本拠を構えることで、テクノロジー主導で、進歩的な企業文化を育てることができた。
「話題性があって視聴者数の多い物語作りの点で、他のどの競合よりも強くなりたいのです」と、ヘイスティングスは語る。
競合もその点に気づいており、何十億ドルもかけてネットフリックスに立ち向かおうとしている。ディズニーは「ディズニープラス」、ワーナーメディアは「HBOマックス」、NBCユニバーサルは動画配信サービス「ピーコック」といった具合に。
確かにハリウッド企業なら、動画配信事業でアーカイブやノウハウをいくらでも活用できる。だがネットフリックスの成功は、エゴやイメージの上に築かれた企業にマネなどできないだろう。それは、徹底的に透明性を高めた企業文化と、絶え間なく迅速に行われる改革の組み合わせによるものだからだ。
ロサンゼルスにもオフィスがあり、コンテンツや法務、マーケティング、広報などの部門が置かれている。ネットフリックス作品の多くはここにあるスタジオで制作されている。
過去数十年かけて築かれてきたエンターテインメント産業の枠組みが根底から崩れ去る瞬間──。ネットフリックスはまさにそんな時に頂点に達したのである。ヘイスティングスは、今までの20年を「この一瞬」のために費やしてきた。