ビジネス

2021.02.27 08:30

ネットフリックス共同創業者兼CEOが明かす「人の心を動かすチーム」の育て方


精鋭で構成されたネットフリックスは、互いの並外れたスキルを信頼するようになるなか、やがて率直に意見を交わし、集団として力を伸ばしていく。とはいえ、ある元幹部は、同社の職場環境を“恐怖の文化”と呼び、「誰もが、いつ何時でも、互いの評価を少しずつ削ぎ落としていった。自分の利益になるからだ」と明かす。年次の人事評価は「ライブ360」と呼ばれる360度評価で、その終わりには夕食会が催され、少人数のグループが集まって建設的なフィードバックを提供する。前出の元幹部は、「その従業員に対して思うことをみんなで話すわけです」と語る。

「テーブルに集まった人たちが、順番にそれをやっていきます。何時間もかけて行われるのです。泣き出す人もいます。それが終わると、従業員は『ありがとうございます。おかげで私は成長することができます』と言わなければいけません」

ヘイスティングスにとって「ライブ360」による人事評価は必要不可欠だ。ネットフリックスでは、従業員に認められている自律性も重要な資質だからである。ヘイスティングスはチームの監督のように、ネットフリックスに最大限の利益をもたらす行動の自由を奨励している。

ヘイスティングスが1991年に創業したピュア・ソフトウェアは、シリコンバレーの基準では成功と呼べる。だが彼の中には不満が残った。同社は初期はイノベーションを起こしていた。それが成熟するにつれ、リスクを取るのではなく、ミスを防ぐことのほうを意識するようになっていた。同社は「塗り絵でいえば、線からはみ出さずに色を塗るのが得意な人間ばかり昇進させるようになった」とヘイスティングスは述懐する。次第に、クリエイティブな一匹狼タイプは息が詰まり、他社へ転職していった。その過ちから、ヘイスティングスは「一般的に企業は効率性やミス防止を軸に組織化するが、それが組織の硬直化につながる」と説明する。



「我々は創造型の企業です。柔軟性を軸に組織化し、カオス(混乱)に耐えられるほうが好ましいのです」

経営面も同じだ。例えば1997年に創業したネットフリックスは、DVD入りの赤い封筒を郵送することで知名度を高めた。これは、レンタル大手「ブロックバスター」の実店舗型レンタル事業モデルからの転換だった。やがて、ネットフリックスは99年にサブスクリプションモデル(定額型)で熱い支持を集めるようになる。会員は一度に3本の映画を借りることができ、返却日や延滞料金の心配する必要がなかった。膨大なコストを伴ったが、1カ月間の無料お試し期間を提供して会員を囲い込んだ。01年の大量解雇によるリセット後、ネットフリックスは財務的に自立し、成長し始め、02年の新規株式公開(IPO)では8250万ドルの資金を調達。

そして07年、ブロードバンド時代の到来が動画配信事業というチャンスをもたらした。ネットフリックスの急成長がブロックバスターを破綻に追い込んだように、ヘイスティングスは自社が同じ目に合うことだけは是が非でも避けたかった。そこで、現金とエンジニアリングのリソースを注ぎ込み、既存のDVDレンタル会員に事実上の無料配信サービスを提供した。

それが、動画配信企業「ネットフリックス」の運命を決めた瞬間だった。
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文=ドーン・シミレスキー 写真=クワク・アルストン 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN No.078 2021年2月号(2020/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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