アカデミックに「変人」を論じた1冊
最後は、『京大変人講座』(酒井敏・小木曽哲・山内裕・那須耕介・川上浩司・神川龍馬著)。この本は、京都大学で2017年からスタートした「京大変人講座」の中から6回分を抜粋して、講座の様子を紹介したものだ。
酒井敏・小木曽哲・山内裕・那須耕介・川上浩司・神川龍馬著『京大変人講座』(三笠書房)
京大変人講座は、この本の著者の1人である酒井敏教授らによって始まった一般公開講座で、月1回程度、京都大学の教授や学生らが登壇して、それぞれの専門分野や活動領域を踏まえて「変人」が社会にとってどんな役割を果たすのかについて話している。
前述の2冊と比較すると、この本ではよりアカデミックな側面で、「変人」の意義を説明している。地球の歴史を通して、繰り返し訪れた大量絶滅時代を生き延びた変な生き物の話や、計算機でさえ複数計算を繰り返すと製品ごとに違う計算結果を示してしまう話など、普段京都大学で講義をされている6名による大変興味深い話題が続く。
「変人」の重要さについてなんとなく感じている人はいると思う。また、ビジネスなどの経験を通してその重要さを語る人も少なくない。だが、効率性や合理性が求められるなかで、「変人」のような場合によっては無駄とされるものを切り捨てる風潮が強まっている。
大学の文系学部再編が文科省から提起されたことも記憶に新しい。筆者自身も、変人学の研究をしていると、そんな学問をやっていてどんな意味があるのかと問われることも少なくない。しかし、このような一見無駄なものや「変人」などの必要性を科学的に証明する必要が来ている時代なのかもしれない。
そんななかで、この本は、地球岩石学、サービス経営学、法哲学にシステム工学など多様な分野の専門家がアカデミックに「変人」の意義を述べており、たいへん説得力のある内容となっている。
また、人間を超えて、生物のルールや地球や宇宙のルールにおいても「変人」の存在が前提とされていたり、必要不可欠なものとされていたりすることは、「変人」がこの世界の本質的な存在であることを示しているようにも思える。
以上、今回は「変人」に関する本を3冊紹介してみた。「変人」と聞くと遠い別世界の存在だと思われがちだが、実は身近で必要な存在であることを感じていただけただろうか。また、著名なビジネスパーソンや教授が大真面目に「変人」について語る姿を、面白く興味深いものとして感じていただけたのではないだろうか。
連載:ニッポンのアイデンティティ
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