上田:言語の話題が出ましたが自動翻訳が気になっています。そこでも抜け落ちてしまう部分が出てくる。最終的には、言語の独自性が出てくると思います。
私が書いた短編小説『君たち』は英語に翻訳されました。英語版の題名は『you lot』です。その中に幽霊が出てきます。歌舞伎や浄瑠璃演目を題材にしており、日本の幽霊なので定型句である「うらめしや」と言います。これは英語に訳せない(注8)。
訳せないところに言語の違いが明確に表れる。言語は人の精神にとても近いものなので、言語さえきちんと把握できれば、その国の人となりが分かってくると思うのですが、それでも翻訳できないところがある。そこが面白い。
一方で今後、自動翻訳を通してコミュニケーションをしているつもりになっていても、表面上分かったふりをしているだけかもしれない。言語にひもづいた文学や詩をゆっくりと味わう方向に世の中を持っていけないか。こんなことを考えます。
注8:『君たち』は令和2年度日本博主催・共催型プロジェクト「日本各地のストーリー創作」のために書かれた。「日本各地に眠る文化や物語のエッセンスを抽出し、短編小説に昇華する」取り組みで、複数の作家が日本語と英語で小説を発表、ショートフィルムも製作する予定という。英語版の『you lot』の中で「うらめしや」は「Wooooo!」と訳された。