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2021.03.04

「我々はいつも迷子、だから楽しい」、台湾デジタル大臣がAI時代の生き方を助言

語り合う上田岳弘氏(左)とオードリー・タン氏(右)。


上田:俳優の友人がいるのですが、彼は色々な役を演じていくことで、目線が上がっていき、俯瞰(ふかん)的になると言っていました。個でありながら、常に自分のことを遠くから見ている感覚を味わうようになるそうです。

タンさんと話していると、楽しめるマインドが今後大切なことだと感じます。自分が迷子になることを楽しめるかどうか。純文学作家としての僕は迷子を「悩み続ける」と皮肉に表現してしまいがちなのですが(笑)。

タン:迷子の感覚を持つのは重要です。十分迷子に、例えば毎日迷子になっていると習慣になり、精神においてすべてを受け入れられるキャパシティーが身に付いていきます。先ほど上田さんが話していた、俯瞰的な視野を持てるのです。

上田:創作をしているとき、答えがありません。書いているさなかにも、いったん書き終わったときにも、答えが分からない。その後、書き直しをしていき、完成形が見えてきて初めて、「これか」と分かることがある。

迷子になるのは楽しい半面、とても苦しいと感じることもあります。編集者に締め切り日を約束して書いているので「書き終わらないのではないか」という不安が常にある。最近やっと楽しいと感じるようにはなってきましたが。

自動翻訳は言語にどう影響するか


タンさんには何か悩みというか、腑(ふ)に落ちていないというか、とらわれていることはありますか。

タン:例えば今、通訳者を通して、私たちはつながっていますが、私は日本語ができない。これは結構苦痛です。

もちろん、通訳者ががんばって、ほぼリアルタイムにコミュニケーションができていますから何とかなっていますが、同時通訳では、私自身も同時通訳をすることがありますが、言葉を追加したりして時間がかかるし、逆に抜け落ちるところもあります。

「ロスト・イン・トランスレーション(翻訳において失われる)」と言いますよね。会話の中で意味が失われてしまう。ただそれだけではなく、新しい意味も発見されます。共同クリエーターである通訳者が言葉を選んでくれるからです。

私自身は日本語へ直接アクセスができないので、少しフラストレーションがあります。もっと日本語を学ぼうというモチベーションにはつながりますが。質問への回答として今このように感じています。
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文=谷島 宣之

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