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2021.03.04

「我々はいつも迷子、だから楽しい」、台湾デジタル大臣がAI時代の生き方を助言

語り合う上田岳弘氏(左)とオードリー・タン氏(右)。


タン:「好奇心を持つ」「インタラクション(相互作用)」「公共の善」など、もちろんどれもが良い回答です。ですが、私が話しているのは、良い回答ではなく、良い質問のほうです。

良い質問を楽しむような状況に自分をジョインさせる。生きている間に答えが出なくてもかまわない。もちろん『万物についての回答が42』だということをみんな知っています。でも、それ以外にも答えはたくさんあります(注3)。

上田:悩んでいるときは苦しいだけでなく楽しくもありますよね。

タン:さまよい歩くことは楽しいですね。実際、私たちは迷子です。階段を下りてどこへ行くのか。木に向かって歩くとどこへ到着するのか。私は知りません。

今もこの自然なシナリオの中で、話す内容が決まっていないまま、迷子になっています。つまり私たちはよく分からない状況に置かれているわけですが、楽しいですし、美しいことだと思います。

迷子になりにいこう


上田: 迷子になるのは僕も大好きで。旅行のときも行く場所は決めますが、そこから先の日程はあえて決めず、迷子になりにいったりします。タンさんもそういうタイプですか。

タン:最近、スイスのマッターホルンを訪ねました。非常な高所であり登るのは困難です。私は山登りのプロではないのですが、ヘリコプターのビデオグラマトリーという技術を使って、マッターホルンを様々な角度から見ることができました(注4)。

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(撮影:姚 巧梅)

VR(仮想現実)グラスである「XRSpace Mova」を装着して、ニューヨークにいるニュー・ミュージアムのアーティスト兼キュレーターの方と一緒に、今日の私たちのように会話をしました(注5)。2次元の世界ではなく、マッターホルンの周りで話をしたのです。すごく楽しかった。

どこへ行くかも分からず、ただ空中を漂っていたのですが、目を見張るほど荘厳な山の景色とずっと一緒にいられました。

注3:「万物についての回答が42」はダグラス・アダムスのSF『銀河ヒッチハイク・ガイド』に出てくる言葉。「生命、宇宙、そして万物についての究極の疑問の答え」を問われたスーパーコンピューターが750万年をかけて計算し、出した答えが「42」だった。米文学研究者で翻訳家の佐藤良明氏は「42」の逸話について、カート・ヴォネガットの小説『タイタンの妖女』に出てくる、自身の存在意義をコンピューターに尋ねるシーンのパロディーではないかと指摘している。ちなみに上田氏は影響を受けた本の中に『タイタンの妖女』を入れている。

注4:ビデオグラマトリーは動画から3次元モデルを生成する技術。フォトグラメトリーともいう。

注5:XRSpace(未来市)はVR/AR(仮想現実/拡張現実)を手掛ける台湾のスタートアップ。ヘッドセット型のVR機器「XRSpace Mova」を開発している。
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文=谷島 宣之

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