経済・社会

2021.01.10 12:30

初めて「障害」を打ち明けた その後に知った「優しさに包まれる」感覚|#供述弱者を知る


冤罪を生む最大の要因は、逮捕したら無実の可能性を一切排除して被疑者の言い分に耳を貸さず、何が何でも自白させる、という古典的な手法から脱却できない捜査と裁判官の無理解にある。そこを多くの人になかなかわかってもらえないのは、歯がゆい現実だった。

「グレーゾーン」にいる人が共有する悩み


西山さんは、刑務所を出てからしばらくの間、コンビニでバイトをしながら障害者枠での就職活動を続け、2019年に入ってリサイクル会社で職を得た。

西山さんは一般枠か障害者枠か、就職活動のときに悩みに悩んだという。

「障害者枠で仕事を探しているときは『自分は人より劣っている』というコンプレックスが頭のどこかにあったと思うんです」

軽度知的障害も発達障害も、日常生活に支障はなく、仕事もほぼ人並みにできる。オープンにして職を探すかクローズのまま就職するか。いわゆる「グレーゾーン」と呼ばれる境界域にいる人の共通の悩みでもある。

障害者枠での就職を選択した西山さんは、いま「オープンにしていて良かった、と思う」と率直に語る。その理由は2つある。

1つは支援体制の充実だ。

「今は障害者のための支援センターがあり、スタッフがついてくれていろんなバックアップをしてくれる。相談できるところができたことは大きい」

2つ目は、職場の同僚達との相互理解が自然にできるようになったことだという。

「最初のころは職場でうまく話が通じないと『自分が劣っている』『相手が自分を見下している』と思ったりしましたが、今は私の障害を周りが理解してくれ、私も『相手はこういう考えで言っているのか』と理解できるようになった。(事件のあった)湖東記念病院で看護助手をしていたときは、いつも看護主任に叱られていたけど、私の障害を分かってくれていたら、違ったと思う」

障害者枠で働く職場の雰囲気を「なんか包容力がある、というのかな。とても働きやすい。仕事は人に恵まれることが大切。それによって、自分も成長できていることを実感している」と話す。

2020年12月、西山さんは念願の高齢者施設で働くことになった。おばあちゃん子だった西山さんは昔から近所のお年寄りたちとも親しく、母・令子さん (70) は「もともとは私が美香に勧めていたのは、そういう高齢者施設でした。それが病院になって大変なことになってしまった」と悔やんでいた。ようやく、自分に合った職場と出会った西山さんにいま、新しい人生の春が訪れようとしている。

西山美香さん
新しい春に向けて、一歩を踏み出した西山美香さん 過去を受け止め、未来に進んでいく 写真=Christian Tartarello 


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*本連載は、2020年4月から毎週日曜12:30に公開していましたが、今後は随時掲載となります。ご愛読ありがとうございました。

文=秦融

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