朝のうちは曇りがちだった空もすっかり晴れ上がり、視界は至極良好。眼下の風景は街から郊外へ、農地へ、そして山並みへと刻々と変化していく。
時折、山上湖が鏡の破片のように太陽を反射し、目にキラリと眩しい。紅葉や常緑樹に彩られた山嶺の稜線は複雑に連なり、眺めていて飽きることがない。細く薄くたなびく雲が、山嶺をかすめるように静かに流れていく様を見ていると、いつもとは違うマクロな目線、あるいは鳥瞰で見る日本の多彩な風景に、地形に、新鮮な驚きを覚える。
目の前で操縦する機長の勇姿や複雑な計器類の動きを盗み見たり、管制塔とのやり取りに聞き耳を立てるのも、これまた実に心楽しいエンターテインメントだ。
やがて左舷に見えてきたのは、紛うかたなき富士山だ。その雄大さに圧倒されながらも、目を凝らせば登山道まで見えるような距離の近さに感動する。かつて登頂した経験があるが、もしもいま登っていたとしたら、この機体に気がついただろうか?
そうこうしているうちに、50分のフライトはあっという間に終わりを迎え、機体はあっけないほどにあっさりと、松本空港にランディング。何の不快な揺れもない、疲れもない、快適至極なフライトであった。
シームレスに極上のリゾート時間が始まる
エンジンが停止し、機体が開き、東京よりも冷えた空気の松本空港に降り立つ。するとどうだろう、目の前にはGMCサバナ エクスプローラーリミテッドSEというなかなかレアなフルサイズバンが待ち構えていて、スマートなホテルマンがとびきりの笑顔で出迎えてくれた。
エクスクルーシブなフライト体験から始まったSKY TREKの旅は、ここでシームレスに「明神館」のプロデュースする極上のリゾート時間へと手渡される形となった。そう、こうした心憎い演出ができるところがルレ・エ・シャトーであり、「明神館」なのだ。
ルレ・エ・シャトーとは1954年、フランスに始まったホテルとレストランの非営利団体としての国際協会組織のこと。新規加盟には素養と卓越、アール・ド・ヴィーヴルとおもてなしのセンスを問う厳格な審査が伴うこともあり、上質な食と旅の信頼すべきベンチマークとして知られる。つまり、初めての国と地域でもルレ・エ・シャトーを選べば間違いないと言えるほど、そのメンバーであることは誉れ高く、かつ信頼の証となっている。
発足から半世紀以上を経たいまでは、世界62か国で約580のホテルとレストランが加盟しているが、レストランの多くはミシュランの星を獲得しているなど、筆者の実体験でも良い思いしかしたことがない。
宿に向かう道すがら、「明神館」と同じ扉グループが運営する、こちらもルレ・エ・シャトー加盟のレストラン「ヒカリヤ」で昼食をとることに。ところが車は、街中ではなくのどかな田園風景の只中で停まる。松本市中山地区の山間に抱かれた畑に見つけたのは「Satoyama Villa DEN Organic Farm」の看板。ここは同グループが運営する古民家をリノベーションした宿の畑で、宿泊者は農業体験を含め、信州の里山の暮らしを滞在しながら感じることができるという。
さて、どんなサプライズが待ち受けているのか期待に胸膨らませながら畦道を付いていくと、そこにあったのは焚き火とストーブを囲むソファスペース。奥にはデイベッドも見える。
そこにいたのは胸にブドウのバッジを付けたソムリエで、「ようこそお越しくださいました」から始まる口上ののちに、見事なサーベルカットでテタンジェをサーブしてくれた。畑越しに広がる北アルプスと松本平の景色を独り占めして、青空の下で供されるシャンパーニュ。昼食前のアペリティフをいただくのに、これ以上贅沢なシチュエーションは望めないだろう。
景色を堪能しながらグラスを空け、「でも、ちょっと寒いかな」と思うや否や、ソムリエが今度は焚き火の中からおもむろに竹筒を取り出す。「こちら、竹筒に入れて温めたホットワインになります」
客から求められる前に、次のもてなしを心憎い演出のもとに用意してくれる、この絶妙な間合い。まだレストランにも宿にも着いていないのに、もう「明神館」の演出する極上のリゾート時間に、文字通り心酔したひと時であった。