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シネマの女は最後に微笑む

(c)2012 – copyright : Les Productions du Trésor – France 3 Cinéma – France 2 Cinéma – Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions – La Cie Cinématographique – RTBF(Télévision

今年元旦に配達された年賀状の枚数は、およそ11億7000万枚。去年より10%ほど少なく、12年連続で減少したという。メールやSNSでメッセージをやりとりする現在、新年の挨拶をハガキでという風習も徐々に廃れていくのだろう。

そもそも現代の年賀状も、手書き風のフォントを使ってパソコンで作るのが一般的だ。活字を打ち込むという作業においては、メールの年賀状と大差ない。

タイピングに若い頃から馴染んでいる世代が中心となった今、「書く」とは「打つ」ことになっている。1870年に初めて商業タイプライターが生まれ、電動式、電子式と発達し、やがてワープロからパソコンへと需要は変化したが、キーボード配列には初期の手動式タイプライターの名残があるという。

というわけで今回取り上げるのは、『タイピスト!』(レジス・ロワンサル監督、2012)。1950年代末のパリを舞台に、地方出身のヒロインが「タイプライターの早打ち」で世界一を目指す物語だ。

ローズという「原石」


まず、モダンなデザイン感覚をたっぷり盛り込んだタイトルロールのグラフィックが楽しい。洗練されたオープニングから、画面は50年代名画の色調へ。田舎の雑貨店の店先に置かれたタイプライターのクローズアップ、次いで、キーを一本指でたどたどしく打って現れた文字を見つめる店の娘ローズ(デボラ・フランソワ)。

父の反対を押し切って田舎から上京した彼女は、とある保険会社の秘書面接試験を受ける。ずらりと並んだ都会的な装いの女性たちの中でローズの花柄ワンピースが浮いているのは、彼女がそれまでの型に嵌らないチャレンジャーとして描かれているからだ。

見かけは世間知らずの田舎者だが一本指のタイピングが意外にも早いことに注目した社長のルイ(ロマン・デュリス)は、彼女を試験的に採用。結果、秘書向きではないが「タイプライター早打ち大会」に出るなら仕事を続けさせると約束する。

普通、こんなおかしな判断をする上司はいない。だが物語が進むうちに、かつてはアスリートであり戦時中のナチ抵抗運動や従軍も含め、さまざまな屈折を抱えてきたルイの背景も見えてくる。彼は、ローズという「原石」に出会い、新しい勝負に出ようとしたのだ。

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(c)2012 – copyright : Les Productions du Trésor – France 3 Cinéma – France 2 Cinéma – Mars Films - Wild Bunch - Panache Productions – La Cie Cinématographique – RTBF(Télévision belge)(c)Photos - Jaïr Sfez.

天然なところはあるが負けず嫌いなローズはそれを受け入れ、ルイから特訓を受けるため彼の家に住み込み、地区大会での優勝を目指して励み始める。一方、ルイの友人のボブは「メダルより彼女と寝ろ」などとルイをけしかけ、ローズの優勝を巡って賭けまで行われる。

どちらかと言うと童顔のデボラ・フランソワの演じるローズは、実にチャーミング。観る者を、「この子が勝負に負けて泣くところを見たくない」という親戚のおじさんやおばさんの心境にしてしまうようなキャラクターである。

アメリカ人ボブと結婚したマリーとルイとのかつての関係、ローズの部屋に貼られたハリウッド女優のピンナップと亡き母の写真、世界大会でのアメリカ人との決勝など、随所にフランスvsアメリカが仕込まれているのも興味深い。

スポーツのような「タイピング」の躍動感


やがて特訓と努力が実を結び、ローズはタイピスト早打ち大会の階段を駆け上がっていくが、それと同時にルイへの密かな想いもだんだんと膨らんでいく。

つまりこの作品は『マイ・フェア・レディ』と同じく、年上男性が若い女性を育てていくという話形を踏まえつつ、内容的にはスポ根ドラマとロマンチック・コメディの合わせものになっている。

文=大野 左紀子

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