ストレスに対する生物学的反応から、PTSDを予測できるかもしれない
研究責任者で、ベイラー大学の心理学と神経学の助教授、アニー・T・ギンティ(Annie T. Ginty)は、プレスリリースでこう述べている。「世界的なパンデミックが発生する以前の生物学的な覚醒反応の低さ、つまり、驚くことやストレスの多い状況を前にしたときの身体的な反応から、その出来事に関係したPTSDの兆候を予測できる可能性があることを、この研究は示している」
こうした結果はにわかには信じられないかもしれないが、前例がないわけではない。兵士を対象にしてストレスホルモンと呼ばれるコルチゾールの値を測定した研究によると、派遣前に、激しいストレス要因にさらされた際のコルチゾール値が低いほど、派遣後に発症するPTSDの症状が強くなることが予測されると判明したのだ。
ギンティは自身が以前に行った研究で、激しいストレス要因にさらされたときの生物学的反応が比較的弱かった人は、反応が強かった人よりも、実際には状況についてストレスをより強く感じていたことを明らかにしている。こうした結果は、別の最新研究とも一致する。
ある最新研究では、マインドフルな状態(目の前で起きていることに集中すること)が実は、その瞬間のストレス反応を高めることが明らかにされた。また、被験者がマインドフルであればあるほど、つまり小さなことで動揺しやすい場合は、のちに認識したストレスが、反応の弱かった人より低かったこともわかっている。
ストレスに対するアプローチを見直すべき
「何にも動じない強靭な精神力」についての一般通念に反して、「ストレスに対する生物学的反応の柔軟さ」が重要であることが、研究で繰り返し明らかにされている。そしてその柔軟性とは、感情の浮き沈みが伴うものだ。ストレスを敏感に感じ取ることが、対処法として効果的である可能性が研究で何度も示されているにもかかわらず、世間では相変わらず、敏感さは弱点だと考えられている。
我々は、問題に直面しないかぎり、問題を解決することができない。そして人間にとって「問題に直面する」とは、問題を生物学的に感じ取るということだ。ストレスに敏感なのは弱点ではなく、効果の高い問題解決戦略であることを示す研究がどんどん増えている。
こう考えてみよう。目の前のストレスに強い反応を示す人たちは、そのストレスに対処し、解決策を見つけやすい人である可能性がある、と。日ごろからストレスに強く反応していれば、対処スキルを使う機会は増えていく。ということは、大きな問題が発生したときにはすでに、対処するための練習を何度も重ねていて、大きなストレスに立ち向かう準備がほかの人よりもできているわけだ。
今度、誰かに対して、「あなたは小さいことで大騒ぎしすぎだ」と批判しそうになったときは、ちょっと立ち止まってみよう。自分のほうこそ、どうしてもっと大騒ぎをしないのかと、理由を考えたほうがいいのかもしれない。