準決勝を終えた2人。惜しくも決勝進出は逃したが、昨年度優勝したチームの女性から「ぜひコラボしてみたいチーム」と名前を挙げられるなど、海外からも好評だった。
2020年のRed Bull Basementで優勝を勝ち取ったのは、シャワーの水を再利用して洗濯を行う「携帯型洗濯機」で挑んだイギリスのチーム「Lava Aqua」。彼らはプロトタイプを制作し、価格まで設定しており、日本代表の2人にとっても印象深い案だったという。
さらに上位3チームには、日本代表と同じく発電機器を開発するスロバキア代表「Charging Revolution」も選ばれていた。彼らの発電機器は、回転することで磁場の変化を利用した開発をしており、片手に収まる程の小さな装置を振ると、発電できる仕組みを披露した。外部のリソースを使用しなくとも、自分の動きから発電できる点が斬新だと高評価を受けていた。
ともに新たなリソースから電力問題を解決しようとする日本の2人は、スロバキア代表とも技術についてのディスカッションを行うなどして親交を深めたという。
袴谷は「ピッチの見せ方そのものが斬新で、彼らのようにその場で僕たちも音から電気を作れることをやって見せたかった。自分たちが使っているような未来の姿を鮮明にイメージすることができた」と話す。
袴谷優介
「意外と世界って変えられるんじゃないか」
世界の同年代たちと触れ合うなかでhummingbirdの2人は「積極的にコミュニケーションを取ることの重要性」を実感した。各国代表と交流することで、袴谷は「ある気づき」を得た。
「僕が気づいたのは、ここに集まってる38カ国の人は本気で世界を変えたがっているということ。その情熱を感じました。もともと僕は個人的な挑戦はしてきたつもりだったけれど『世界を変える』というように大きな話になると、やっても無駄だろうと悲観的でした。やろうと思えば世界を変えられるというマインドセットの変化は鮮烈でしたね。だから今後自分がやりたいことが見つかった時は、やってみようと思えました」
Red Bull Basementは開発技術を試す場であるだけではなく、世界を見据えた先を実感する場でもあるのだ。
須田隆太朗
チームリーダーで、いわばCEOの役割を担ってきた須田は、こう振り返る。
「僕がいつも大学で学んでいることは、本当に基礎的なことなんだと実感した1カ月でした。いざ装置を作ろうとしていろいろ試すと、教科書に載っていることが実現できたり、反対に実践できないことがわかったり、自分は何も知らないんだなと感じました。その中で、みなさんとのディスカッションがあったからこそ、何でこれを作る必要があるのか、なぜこれを作ることが自分のやりたいことに繋がるのか、ということを真剣に考えることができました。その時間が僕らにとってはすでに財産になっています」
世界での挑戦を終え、2人は別々の道へ進む。袴谷は就職を控え、須田は引き続き研究を続けるつもりだ。「音の魅力」に惹きつけられていると語る須田。今後も音力発電に留まらず、音と五感の可能性を追求する開発を行っていきたいと意気込む。
若きイノベーターたちは今後、どんな世界を描いていくのだろう。ここでの挑戦が、未来の原点となるに違いない。