つまり「KAORIUM」は、消費者が香りに紐づけている言葉をデータベース化することで、消費者の香りの感じ方を、データとして活用するためのサービスなのだ。「消費者目線の香りの感じ方の分布をとることで、ゆくゆくはマーケティングや商品開発に活用できるデータビジネスを創造していくことを目標にしています」とも栗栖は語る。
香りの言語化で日本酒の選び方も変わる
日本酒がもつ風味を言葉で紹介してくれる。具体的なイメージが湧きやすい
その「KAORIUM」のAIシステムを応用した「KAORIUM for Sake」というサービスがある。日本酒の風味を言葉とともに味わうという、新しい飲食体験を提供するものだ。
酒ソムリエである赤星慶太が監修し、日本酒が持つ独特の風味と様々な言語表現のデータベースを結びつけることで、酒の特徴を言葉として可視化している。
味や風味が複雑で初心者にはその違いが分かりにくいと言われる日本酒だが、言葉によって「香り」を可視化することで、誰でも具体的なイメージが湧くようにしている。
「すずしげ」「ふくよか」「あたたかみ」の3要素のバランスとともに、香りや印象、また情景に喩えた表現や様々な⾔葉が提示されることで、お酒の特徴がわかりやすく、より自分好みのお酒を選びやすくなるのだ。
「あたたかみ」「ふくよか」など、風味に紐づけられた言葉が表示される
例えば、佐賀の日本酒である「七田 純米 七割五分 山田錦」は、穏やかな米の香りと、きめ細やかな口当たりが特徴とも言われているが、それだけの情報だと、日本酒の素人にとってはイメージしにくい。
「KAORIUM for Sake」を通して、「七田 純米 七割五分 山田錦」の香りの分布をみると、「あたたかみ」が強く、マスクメロン、パッションフルーツ、パイナップルなどに近い風味が感じられるということがわかる。さらに「魅惑的な月夜」など、そこから連想される文学的な表現も同時に表示されるのも面白い。
また興味深いのは、「KAORIUM for Sake」が導き出すキーワードを意識しながら日本酒を味わうことで、今まで感じることのできなかった風味にも気付くことができるという点だ。自分の好みの日本酒がパッションフルーツの風味を持っているとわかれば、それを軸にして、似た風味をもつ別の日本酒を検索することもできる。
12月11日より、「KAORIUM for Sake」の初の導入店舗となるフードペアリングバー「BAY-ya」が、横浜高島屋にオープンしているが、将来的にはECサイトなどでもこの技術を応用できるのではないかと、セントマティックの栗栖代表は語る。
「ECサイトで『日本酒』と検索すると、大量に品種が出てきて、どう選べばよいかわからないといった経験をした人もいると思います。これまでは、ラベルなどを参考に選んでいた日本酒ですが、KAORIUMは消費者にとってイメージが湧きやすい言葉を用いて紹介することができるので、お客さまとお店側の両方にとってメリットがあると思います」
香水やアロマオイルなどに限らず、日本酒やワインなど「香り」が商品価値へとつながる市場は潜在的にも多く存在する。「KAORIUM」のような新しいサービスが注目を集めることで、「香りの市場」はこれまで以上にさらなる成長を遂げそうな気配だ。