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5年前までは一介の会社員だったB・サンダースは、いまやCEOとして3社の製薬会社を立て直した実績を持つ。
その彼は昨年、稀に見る激しい買収攻防戦の末、医薬品「ボトックス」の製造メーカーを買収している。
「製薬業界の革命児」の経営哲学とは。そして、それは製薬業界の未来のビジネスモデルなのだろうか?


 1月上旬、ジェネリック医薬品メーカー「アクタビス」のブレント・サンダースCEO(44)は、ホテルの大広間の舞台上で医療用の椅子に横たわっていた。美容外科医が彼の顔に針を刺し、目と鼻のまわりに「ボトックス」を入れていく。これは、アクタビスが買収手続きを進めている製薬会社アラガンのベストセラー商品だ。カメラマンが撮影する映像が、会場の大画面に映し出された。
「私の顔には、もうカラスの足跡などありません。鼻にしわも寄っていません。これで私もユーザーの1人です!」と、童顔のサンダースは言う。
 大広間を埋めたアラガンの販売代理店員1,000人は、熱狂の渦に包まれた。
 サンダースはいま、製薬業界で最も注目されているCEOであり、ウォール街の台風の目だ。5年前まで、彼はCEOを務めた経験がなかった。しかし、これまでに3つの大手製薬会社を経営し、そのうち2社を売却。昨年だけで、彼は970億ドル(約11兆6,400億円)相当の取引を行っている。

 アクタビスは昨年7月、競合企業のバリアントと「もの言う投資家」のウィリアム・アックマンから敵対的買収を仕掛けられたアラガンのホワイトナイト(白馬の騎士)となった。合併後のアクタビス・アラガンは、従業員3万人を抱える世界第10位の製薬会社になる。利益は出ないものの、230億ドルの売り上げと、80億ドルのキャッシュフローが手に入る。
 アクタビス・アラガンは単なる短期的な取引ではないと、サンダースは力説する。それは革新的な製薬会社、すなわち彼の言うところの「グロース・ファーマ(成長製薬会社)」となるための大切な一歩なのだ。

 ところが、同社は医薬品の開発を行わない。代わりに大学やバイオ企業から買い入れるのである。「研究も技術革新も不可欠です。それは強く信じています。しかし、それだけではコストを回収できません」と、サンダースは話す。
 新薬を作るフリさえしない製薬会社というのは、ある人々にとっては邪道だ。懐疑派は税金逃れか、合併による金儲けが目的ではないかといぶかる。
 その一方で、投資家は歓迎している。5年前、アクタビスは「ワトソン・ファーマシューティカルズ」と呼ばれる、年商25億ドルのジェネリック医薬品会社だった。それから売り上げは5倍になり、株主は総計545%のリターンを得た。
 彼らにはよくわかっている。サンダースは製薬業界の未来をもっともらしく語るが、うまくいかないようなら常に"プランB"を実行する男だと。すなわち、さらなる大型の企業買収である。

 サンダースは泌尿器科医と社会福祉士の両親のもと、ペンシルベニア州で育った。家具の運搬や事務員をして稼いだ金で自ら学費を払い、法学博士号とMBAを取得。29歳までにプライスウォーターハウスクーパースのパートナーになり、ヘルスケア部門のコンプライアンスを担当している。
 そんなサンダースは2003年、製薬業界で経営再建の名手として名高い、製薬会社シェリング・プラウのフレッド・ハッサンCEOと出会った。この会社は、リベートや違法な販売方法などを批判されていた。ハッサンはその"掃除"を手伝ってくれる社外の人材を必要としていた。そして、サンダースの熱意と集中力に感銘を受けたのである。
「仕事を楽しもうとする人は、単に仕事としか考えない人よりうまくやるものだ。『この男なら、きっとやってくれる』と思ったね」と、ハッサンは語る。
 サンダースは悪い社内慣行を排除すると、たちまち頭角を現していく。その結果、シェリングは09年に410億ドルで製薬大手のメルクに買収された。ハッサンは未公開株投資会社ウォーバーグ・ピンカスのパートナーに転身し、サンダースはシェリングに残って統合作業に当たった。

かつての「ライバル」からの思わぬ申し出

 やがてサンダースは、ハッサンから光学機器メーカー「ボシュロム」のCEO職を打診された。ボシュロムのコンタクトレンズ洗浄液が危険な目の感染症を引き起こした後の07年、ウォーバーグは45億ドルで同社を買収していたのだ。ハッサンは会長への就任が予定されていた。
 それは困難な仕事だった。ボシュロムは150年の歴史を持つ企業だが、成長が止まっていた。サンダースは管理職の3分の2を入れ替えた。そして立て続けに企業を買収し、新たな眼科用レーザー装置を含む34の新製品を投入した。彼が経営に当たった2年間で、売り上げは年率9%、EBITDA(金利・税金・償却前利益)は17%伸びている。
 ボシュロムはサンダースの指揮下でIPO(新規株式公開)を計画した。すると、マッキンゼーの元コンサルタントで、バリアントのCEOであるマイケル・ピアソンからサンダースに電話が入った。2人はコンサルタント時代からの知り合いだ。
「ボシュロムを買いたい」という申し出だった―。
 ピアソンは、製薬業界の経営者の多くを軽蔑していた。彼に言わせれば、製薬会社は研究と販売に多くの金を使いすぎ、数十年遅れたビジネスモデルから脱却できていなかった。そんなピアソンが、ボシュロムを骨まで削るのは明らかだった。
 サンダースはIPOに絡む出張から戻ると、金曜日にピアソンと会った。そして、土曜日の午前4時にボシュロムの売却契約に署名した。
「感極まるものがありました。ボシュロムに全身全霊を傾けていましたからね」と、同社に24カ月しかいなかったとは思えないような情熱を込めて、サンダースは語る。しかし、それは「完全に正しい決断だった」とも言う。
「ボシュロムはウォーバーグ・ピンカスに買収されたその日から"売り物"でした。それが、未公開株投資会社のビジネスモデルなのです」

「とても株主思い」の経営陣と取締役会

 ボシュロムを去ると、サンダースは次に世界的投資家のカール・アイカーンからの仕事を引き受けた。アイカーンは、11年に製薬業界フォレスト・ラボラトリーズの株の11%を取得し、取締役会に自分の息のかかった人間を送り込んでいた。
 サンダースはCEOとしてフォレストに加わるや、アクタビスのポール・ビサロCEOと合併交渉を始めた。そして14年2月、アクタビスは276億ドルでフォレストを買収。アイカーンの取り分は20億ドルに近かった。そして、ビサロからアクタビス・フォレストのCEO職を提示されると、サンダースはそれを受諾した。
 すると、サンダースは正式にアクタビスのCEOに就任したわずか10日後、取締役会に、アラガンのデビッド・パイオットCEOと買収交渉がしたいと申し出た。アラガンは、前出のバリアントに敵対的買収を仕掛けられていた。
 パイオットは17年間、アラガンのCEOを務めていた。彼は目の治療薬として承認されたある製品を、20億ドルの売り上げを誇るボトックスに作りかえた。そのうえ、売り上げを10年以上も年率12%で伸ばし、株主に267%のリターンをもたらしている。
 しかし、バリアントのピアソンCEOに言わせれば、パイオットは経費を垂れ流して株価を引き下げているダメ経営者だった。そこで、ピアソンは株価に31%のプレミアムを乗せ、456億ドルでアラガンの買収を提案。そして、パーシング・スクエア・キャピタル・マネジメントの「もの言う株主」ウィリアム・アックマンと組み、アラガン株の9.7%を取得させた。
 
 ピアソンは、アラガンの経営にも同じ態度で臨むつもりでいた。10億ドルを超える研究開発予算を69%減の3億ドルに減らし、それとは別に買収後の管理運営予算を40%カットすると公約した。
 そこで、サンダースはパイオットに、ホワイトナイトになることを申し出た。ピアソンとサンダースの提示額は競り上がり、最終的なオファーは667億ドルにも達した。そして、サンダースが勝ったのだ。
 サンダースは、アラガンの研究開発費には手をつけないと約束している。新生アクタビスは売り上げの7%に当たる17億ドルを研究開発に注ぎ込むことになる。サンダースは買収に同意した段階では、アラガンの新薬開発費も多少は維持するつもりだとさえ話す。なぜなら、アラガンのバクテリア毒素やドライアイの研究は世界屈指だからである。管理運営予算に関しても、彼は約20%しか削らない計画だ。
 バリアントならそれ以上切り込んだだろうが、それにはまた別のコストがかかる。新しい従業員たちを怒らせれば生産性が下がり、かえって高くつく。
「私たちは、会社に乗りこんで同化を強要するようなことはしません」と、サンダースは言う。
「むしろ、彼らの文化から学びたいのです。彼らの仕事の進め方や、その能力から学ぼうとしています。私たちは、より良い会社になりたいのです」
 とはいえ、サンダースがサンダースである以上、別の可能性も残っている。すなわち、早期売却だ。
「我が社の株は、ニューヨーク証券取引所で売買されています」と、サンダースはしれっと言う。
「私たちは、とても株主思いの経営陣と取締役会を持つ会社なんですよ」

マシュー・ハーバー = 文 ジャメル・トッピン = 写真 町田敦夫 = 翻訳

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