法整備の一方で、上川大臣肝入りの政策も進めている。ワンツー議連で提案した「生命(いのち)の安全教育」と題した授業は、国として2021年4月から小中学校などで段階的に導入する方針が決まっている。「いろんな政策を打ち出し、直ちにできることはやる一方で、さらに今後3年間という時間の中で成果を上げていく」というように、見定めながら進めていくつもりだ。
「性犯罪・性暴力の被害者の方々がひとりで抱え込むことにならないように早い時期にSOSの声を発信できるようにして、それにしっかりと周りで受け止める体制の整備も重要だと考えます。すべてが一足飛びにいくことはなかなか難しいですが、一歩ずつ確実に前進していくことが大事ではないでしょうか」
「自分の身にふりかからないと分からない」
さらに2020年は、SNSでの誹謗中傷による自死や、誹謗中傷に関する民事訴訟によって人権問題が顕在化した。上川大臣は「インターネット上での誹謗中傷は、同じような書き込みが次々と拡散され、非常に悪意のある、あるいは面白がるなど、大変深刻な人権侵害になり、大変憂慮しております。まして命を落とすことに繋がりかねない言葉を発し続けることはあってはならないと思っております」と語った。刑事法や民事手続上の課題についても、関係省庁と連携をとって検討していきたいと示した。
インタビューと撮影を終えて、立ち話をしていた時のことだ。上川大臣はポツリと呟いた。
「なかなか啓蒙啓発というのはすごいことでね。法律ができても実態はなかなか難しいものでして、少しでも前進できるように......」
その原動力について尋ねると「性犯罪は魂の殺人とも言われます。やっぱり自分の身にふりかからないと分からないし、人権問題も同じで自分が誹謗中傷の的にならなければ、自分がやっていることが人権侵害に当たるのかもなかなか認知できない。だから多様性と言っても、言葉だけになってしまう」と話し、自身の思いを打ち明けた。
「やはり私自身も犯罪被害者の家族会(あすの会)代表だった岡村さんに出会って、当事者として猛烈にお話をされて、初めて被害者がいかに守られていないかが分かって。やっぱり当事者にならないと分からない、ではもう済まされない。いつ自分の周りでも、あるいはいつか自分がそうなるかもしれない。そういう点で、想像力が発揮できる社会であってほしいと思いますね」
「改革」を叫ぶ政治家は多いが、自身でも徹底的に「自分ごと」と捉えて国民にも理解を促しながら地道に進めていく。上川大臣からは、性犯罪刑法改正を含む改革への本気度が伝わってきた。