国内大手のシステムインテグレーター(SIer)として、金融から製造、公共分野まで幅広い産業にITサービスを提供しているTIS。企業を陰で支えるイメージが強い同社だが、代表取締役会長兼社長の桑野徹に成長戦略を尋ねたところ、意外な言葉が返ってきた。
TISは決済分野に強みをもつ。業界内での存在感の高さは、数字を見れば明らかだ。クレジットカード基幹システムの開発実績は業界シェアトップ。デビットカード関連サービスの提供やシステム開発実績では、約80%のシェアを誇る。
しかしいま、従来型のSIerからの脱却に向けて、成長分野への先行投資を急加速している。2018年から20年までの中期経営計画で、桑野はKPIのひとつに「戦略ドメインの売上比率50%」を掲げた。特に、需要が高まりそうなITソリューションを先回りして準備し、顧客の要望に応じて速やかに提供する「ITオファリングサービス(IOS)」を重視している。
「日本企業は自社でゼロからIT基盤をつくる傾向が強いですが、最近はコストやスピードの面から、いいサービスがあれば活用する方向へと変わりつつあります。それなら我々もサービスビジネスを強化して事業そのものもやっていこうと」
TISにとって、この変革は労働集約型から非価格競争・知識集約型の事業への転換につながる。メリットは大きいと判断し、18年9月、TISは三菱UFJ銀行と共同で「トークンリクエスタ代行サービス」に取り組むと発表。スマホやウェアラブル端末などのデバイスに決済ID情報をトークン化して格納するサービスだ。
「従来なら銀行が事業を手がけ、我々はシステムや運用を提供するところですが、今回は共同事業でやりましょうと。戦略ドメインという考え方がなければ、こうはならなかったですね」
大手企業との提携は続く。19年11月にはトヨタに対して、多彩な決済サービスを1つのアプリに統合できる「デジタルウォレットサービス」を提供し、キャッシュレス決済アプリ「TOYOTA Wallet」の構築を支援。結果として20年3月期の業績は売上高・営業利益ともに過去最高となり、戦略ドメイン比率50%という目標も1年前倒しで達成した。
世界がコロナ禍にあえぐなかでも、先行投資を緩める気配はない。20年秋には、SNSや決済、ネットショッピングなどのサービスをひとつのID認証だけで利用できる「スーパーアプリ」と、スーパーアプリ上で稼働する「ミニアプリ」をスムーズに連携させられる配信プラットフォームサービスの提供を開始する。モバイル経由での決済が増え、スーパーアプリ化に向け企業のID獲得競争が激化することを見越しての「先回り提案」だ。