ビジネス

2020.12.18 12:30

先回りの提案が生んだ、顧客との新たな関係


HOW TOよりもWHY・WHAT


決済事業の分野で圧倒的な強さを見せるTISだが、金融部門の成長をけん引してきたのは間違いなく桑野である。

新卒で入社後、一貫して開発畑を歩んできた。転機が訪れたのは1989年、大阪で信販会社のシステム開発プロジェクトのマネジャーになったときだ。

「足かけ6年かかりましたが、この間、担当役員が3人代わったんですよ。そのたびに方針が変わる。しかも毎日、課題が増えていく。あのころはさすがに毎朝、『会社に行くのは嫌や』と思いましたね」

それでもやり抜いた。そして、この経験が次の転機につながる。クレジットカード会社の新基幹システムを再構築するプロジェクトの担当役員に選ばれたのだ。「専務から、『このプロジェクトを担当できるのはお前しかいないとみんなが言っている』と。思わず『うそでしょう。ほかにいっぱいいますよ』と言い返しました」

だが、そのとき脳裏に浮かんだのは、担当役員が代わって苦労したころの自分だった。社員に同じ思いはさせられない。「何があっても最後までやり遂げる」と覚悟を決め、2004年から5年がかりでシステムをつくり上げた。このプロジェクトに関わった延べ人数はTIS史上最大規模で、いまでもこの記録は破られていない。

そんな桑野に聞いた。困難に打ち勝つためのマネジメントの要諦は何か。すると「HOW TOではなく、WHYやWHATを伝えること」という答えが返ってきた。「なぜやるのか、その仕事にどんな意味があるのかをきちんと示す。特にWHYを説明することは、社員を自立したプロにしていくうえで最も必要なことだと思います」

そして自身が傾倒するジャズに例えて、理想の組織像をこう語った。「ジャズのプレイヤーは、ものすごくプロフェッショナル。コード進行という枠内で、自分の高めてきたものをすべて発揮しながらアドリブを利かせ、しかもチームとして最高のジャズを奏でる。TISも、そんなプロ集団でありたいですね」


くわの・とおる◎1952年生まれ。大阪大学基礎工学部卒業。76年、東洋情報システム(現・TIS)入社。2000年取締役、04年常務取締役、08年専務取締役。10年4月に代表取締役副社長、11年4月に代表取締役社長に就任。18年6月より現職。

文=瀬戸久美子 写真=ヤン・ブース

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