田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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歴史的ヒットを記録したスペースファンタジー映画『スターウォーズ』の第1作。そのクライマックスで、主人公のルーク・スカイウォーカーが、悪の化身ダース・ベイダーの要塞衛星デス・スターを戦闘機で攻撃するシーンがある。この場面、ルークは、デス・スターの排熱孔に爆弾を投下しようと試みるが、その難しさに、何度も失敗する。

爆撃のタイムリミットが迫る極限の瞬間、ルークの傍らに、師匠オビ=ワン・ケノービが現れ、こう語りかける。

「ルーク、フォースを使え!」

その声を聞いて、ルークは、それまで使っていた自動照準装置を閉じ、「心眼」とも呼ぶべきフォース使って、爆撃に成功する。

もとより、この映画は、他愛もないファンタジーであるが、筆者は、高度な直観力が求められる仕事や人生の場面で、ときおり、この映画の、このシーンを思い起こす。

なぜなら、この場面でオビ=ワンが語る「フォースを使え」という言葉は、「自分以外の力に頼るのではなく、自身の中に眠る力を信じ、使え」という意味であり、それまで、高精度な自動照準装置に頼って目的を遂げようとしていたルークに、「自身の直観力を信じ、それにすべてを賭け、挑戦せよ」と語った言葉だからである。

同様に、この言葉は、情報の収集と分析だけで判断をしがちな知的職業の人間にとって、自身の中に眠る直観力を信じて判断することの大切さを教えている言葉でもある。

実際、経営者や起業家、スポーツ監督や将棋・囲碁の棋士など、世の中には高度な直観力が求められる職業は多いが、実は、そうした職業においても、直観力を発揮することは、決して容易ではない。

なぜなら、昔からプロフェッショナルの世界では、次の警句が語られるからである。

直観は過たない。過つのは判断である。

例えば、経営において、ある難しい決断が求められる。A案かB案かという難しい選択を前にして、最初の直観は、A案が良いと教えている。しかし、色々と情報を集め、様々に分析をしていると、だんだんB案の方が正しいように思えてくる。そこで、B案を選んで物事を進めていくと、予想外の問題に突き当たり、結局、最初の直観、A案が正しかったという結果となる。

実は、こうしたことは、経営者やスポーツ監督など、意思決定のプロフェッショナルならば、誰もが経験していることであり、この「直観は過たない。過つのは判断である」という言葉が正しい警句であることは体験的に分かっている。しかし、いざ、難しい現実の問題を前に、自身の直観を信じて決めようとすると、情報と分析による判断が邪魔をして、それができない。

そうしたとき、筆者は、このオビ=ワンの言葉を思い起こす。

文=田坂広志

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