そうなると、モノが売れなくなるため、企業は売るために値下げをする。実際に人々の予想通りモノの値段が下がると、人々はさらに待てば値段が下がるのではないかという確信を強めていく。
どんどんモノの値段が下がっていくのだから、やはり消費者にはメリットがあるではないかと反論したくなる気持ちもわかるが、今度は企業側の目線に立って考えてみよう。
モノを売るために値段を下げようとするが、企業は利益を出さなければいけないので、どこかでコスト削減をしないと成り立たなくなる。
そこで、人件費、つまり従業員の給与や賞与、原材料価格などを削ることになる。または、新しく工場をつくったり、生産過程で使う工具の購入などの投資を控えたりするようになる。その結果、企業は成長を見込めなくなるので、将来的にはさらにこれらの費用を削ろうと考えるようになるだろう。
給料が下がった従業員は、仕事が終われば消費者になるので、将来モノの値段が下がると予想して買い控えるという以外にも、単純に購買力が落ちて消費しなくなる、つまり常態的にモノを買い控えるようになる。
そうなると、さらにモノが売れなくなって、企業はモノの値段を下げる。そのために、さらに人件費を削っていく。消費者の購買力が落ちて消費が落ち込む……という負のスパイラルが生じる。これが「デフレスパイラル」だ。
デフレマインドの恐ろしさ
また、デフレになるとお金の価値が上昇する。ここでも極端な例を出すが、今日100円で買えるものが翌日には90円で買えるようになるとしよう。物価が下がっただけだが、見方を変えるとお金の価値が上昇したことになる。
こうなってしまうと、多くの人が現金を貯め込むようになり、借金をして投資をする、高額なものを買う、ということをしなくなる。
デフレが長期間続くと、それが普通の状態になってしまう。まさに世の中や人々の心に「デフレマインド」が刷り込まれてしまうのだ。一度このマインドに陥ってしまうと、なかなか抜け出せないことは、すでにわが国は経験してきたはずだ。
デフレ経済の恐ろしさを知っているわが国は、再びデフレに突入したという認識を早々に持って策を打つべきなのだが、まだそれについての話はあまり耳にしない。
物価自体はさまざまな要因で変動するため、数カ月の状態だけでデフレだどうだと騒ぐべきではないという判断もあるかもしれないが、いまは昨年の消費増税による購買力の押し下げやコロナ禍によって、確実にデフレ圧力が強まっている。
このような「危機」を前にした状況にあって、あまりにも無策でいると取り返しのつかない事態に陥る可能性も十分にあり得る。
連載:0歳からの「お金の話」
過去記事はこちら>>