ビジネス

2020.11.26

ソニーから学んだ「差別化戦略」 養うべきは知識ではなく智慧

ソニー創業者で当時の会長だった盛田昭夫氏は、自身の進退をかけてウォークマンの開発プロジェクトを推進した(Colin McConnell/Getty Images)


例えば、「葡萄の木がある」というのは、現実世界の観察から得られる「データ」であると考えることができます。そして勇気ある最初の1人が葡萄の実を食べて、食べられるということが判ったことが「情報」に相当します。

次に、ある人が、猿酒のような果実が自然に醗酵してできた天然醸造酒を発見し、醗酵という現象を知り、醗酵させたもの飲食して酔う体験をする。これによって、アルコール飲料をつくる法則や原理が「知識」として人間に蓄えられます。ここまでで、ワインの基本的な作り方と「知識」を得ることができました。

そして、基本的なワイン醸造の「知識」に加えて、人々は美味しいワインを求めて、探求を続けてきました。現在の5大シャトーに代表されるような、世界中の銘醸と言われる多くのワインでは、どういった品種の葡萄を、どのような土地で育て、どういう酵母や樽を使い、どの位の期間醸造するかなど、膨大な時間と数えきれない試行錯誤の結果として、世界レベルの銘醸ワインをつくるための「知識」を蓄えています。

また、ワイン醸造は、予測できない天候の影響を考慮しつつ、土壌そして酵母のような微生物の働きを巧みに制御し、造り手の熱意と「智慧」によって営まれるものです。天候不順で葡萄の糖度が上がらない年、害虫や病気により葡萄が被害に遭う年など、人間が制御できない困難を克服し、素晴らしいワインに仕上げるつくり手の人たちには心から感服します。

これもワイン8000年の歴史の中で育まれ、脈々と受け継がれた「知識」と、つくり手の「智慧」によるものなのでしょう。

「智慧」はコピーされることがない


ワインの醸造主やソニー元会長の盛田昭夫さんの「智慧」は、簡単にコピーできるものではありません。一方、「知識」のように、法則化され原理が明確なものはコピーされやすいものです。つまり、ビジネスやテクノロジーの分野においても、「知識」はコピーされる可能性が高いと言うことです。

これまでも多くのコピーを私たちは目撃してきました。そしてさらに、デジタルエコノミーの世界では、「知識」はデジタル化され、瞬時にコピーされます。

しかし、「智慧」は、経験から物事の真理や根本を捉える能力ですので、後に模倣されることはあっても、即座にコピーされることはありません。また、「智慧」は、デジタルエコノミーの時代においてもAIなどが模倣することのできない、人間がその能力を発揮できる重要な領域です。

皆さんにもぜひ、それぞれの分野で「智慧」を養い、盛田昭夫さんのように差別化戦略やイノベーションをリードし、ワインのつくり手のようにあらゆる状況に柔軟に対応できるレジリエンスを、身につけていただきたいと考えています。

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文=茶谷公之

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