ビジネス

2020.11.26 08:00

ソニーから学んだ「差別化戦略」 養うべきは知識ではなく智慧

ソニー創業者で当時の会長だった盛田昭夫氏は、自身の進退をかけてウォークマンの開発プロジェクトを推進した(Colin McConnell/Getty Images)


データ→情報→知識→智慧への変容


「智慧」という言葉を辞書で引くと、「物事の理を悟り、適切に処理する能力。真理を見極める認識力」などとあります。私は特に「真理を見極める認識力」という点に共感しています。「智慧」とは、物事を適切に処理するだけでなく、物事の真理や根本を捉える能力であると理解しています。
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ビジネスの世界では、「データ」の重要性が叫ばれて久しいわけですが、私はもう少し丁寧に見ていく必要があると考えています。まず、「データ」を分析すると、「情報」というある程度整理された形に変容します。いわば「情報」は整理された「データ」ということです。

「情報」は「データ」を大きさ順に並べたり、似た数値ごとにまとめたりしていますが、そこから法則や傾向などの関係性を見出し、ビジネスの判断材料として利用可能な状態にできると「知識」と呼ばれるものになります。「知識」は法則や関係性などで集約されていますので、人から人へ容易に伝達することが可能な状態になっています。

そして、人生における経験や学びから、「知識」を組み換えたり、一部の「知識」を捨てたり、時には新たな「知識」を加えるなど創造的な作業を経ることによって「智慧」が養われることになります。
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言い換えれば、多くの成功や失敗、人生の中で見聞きしてきたこと、そして人との交わりのなかで芽生えた感情など、あらゆるレベルの経験や学びから物事を判断し、新たな価値を創造することが「智慧」であると考えています。

私は長らくビデオゲーム産業にいましたが、差別化やイノベーションという意味において、「智慧」は非常に重要な要素であったと思います。新たなゲームコンテンツを実現する仕組みや仕掛けを提案したり、新世代のゲームプラットフォームを構築したりしてきた歴史のなかでは、チームのメンバーとまさに「智慧」を振り絞り、新たな価値を生み出すために成功と失敗を繰り返すことの連続でした。そして、その経験がまた、いまの私の「智慧」となっています。

ワイン醸造の歴史は「智慧」の集積


「智慧」はテクノロジーやビジネスの世界だけでなく、あらゆる領域に存在します。私が好きなワインの世界でも「智慧」は大いに生かされています。

ワインは、紀元前6000年代のジョージアが発祥地の1つとして知られていますが、最初から葡萄の実を発酵させるとアルコールが醸成されて、保存できる飲み物になるということがわかっていたわけではなかったので、多くの試行錯誤があったに違いありません。
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文=茶谷公之

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