その目的は、自社製品を使用するユーザーから収集するデータの量を増加させ、この分野での自社ブランドの知名度を上げ、顧客忠誠度を向上させること、そしてもちろん、市場シェアを広げることにあった。しかしアンダーアーマーは今、この競争の勝者となる可能性が最も高い企業が自社ではないことに気づき始めている。主要ターゲットとなる健康維持のために運動を行う人々向けの市場は、あるブランドによる独占の様相が強まっている。それは、アップルウォッチで大きな成功を収めたアップルだ。
この結果、アンダーアーマーはエンドモンドの事業を縮小し、マイフィットネスパルを買収額よりも1億3000万ドル低い3億4500万ドルで投資会社フランシスコ・パートナーズへ売却することを決めた。アンダーアーマーは売却の目的について、ブランドをシンプルにし、気楽にスポーツを楽しむ人々よりも上級者、さらにはプロのアスリートなどの「目標が明確なパフォーマー」に集中するためとしている。
マイフィットネスパルのユーザーは2015年の買収時点で8000万人だったが、その後、世界で2億人にまで膨れ上がった。アンダーアーマーは、最初に買収したマップマイフィットネスの運営は続ける方針だ。同アプリはアンダーアーマーのスマートシューズと連動するトラッキングシステムの機能も持ち、ルートのデータを記録したり、ほかのユーザーのランニングコースを確認したりできる。
こうしたスポーツ用トラッキングアプリはランニングルート、コースの勾配、消費カロリー、心拍数などを記録することで、スポーツをこれまでよりもはるかに精密なアクティビティーへと変えた。軍隊では、敵に位置情報を知られてしまう恐れがあることから、こうしたアプリの使用が禁止されているほどだ。
しかし、単に健康のために運動をするカジュアル層向けのトレーニングアプリで最も大きな成功を収めてきたのは、アップルなどの企業だ。これらの企業はこうしたアプリをアップルウォッチなどのデバイスやペロトンなどのトレーニングマシーンと連携させている。アップルウォッチは今やスイス全体の時計メーカーよりも多くの本数を売り上げ、一方のペロトンは月額のサブスクリプションサービスを提供して顧客忠誠度を醸成している。
アンダーアーマーなど他の企業の展望は暗く、できることといえば、売れるものは今のうちに売って、損失をなるべく低く抑えることしかないのだ。