素朴な質問を繰り返し、素直な反応をする彼女の動画は、堅苦しいと思われがちな話題へのハードルを下げることに一役買っている。SDGsシリーズ動画には、中学や高校などの教育機関から、授業で使用しても良いかと問い合わせる反響も多いという。
ハローキティのYouTube戦略
実はハローキティチャンネルを見ると、SDGsにまつわるコンテンツだけでなく、双子のミミィと漫才に挑戦したり、芸人とコラボ企画を行なったりもしている。最近では、1時間ひたすら芸人のヒロシと焚火をする様子をただ流し続ける動画が53万回以上視聴された。SDGs以外の動画を配信し、チャンネルに興味をもってもらうため間口を広げたい狙いもあるという。
チャンネル登録者は20〜30歳代と若い世代が多い。すぐにはSDGsに関心を持ってもらえないかもしれない。だが、木村は「動画を配信し続けることで、記録として残り、コンテンツを貯めていくことで多くの人の目に留まりやすくなる」という。従来のファン以外にも広い範囲の人々に興味をもってもらうため、地道な戦略だった。
また、途中で離脱せずに最後まで動画を見続ける「完全視聴率」が高いというのも特徴だ。最後まで通して視聴されることが少ない動画という媒体において珍しい現象といえる。
ながら見をしやすい焚き火などの作業動画では、ハローキティの細かい動作を追いながらチェックし、コメントに記している人もいる。特に広告を入れている訳ではないが、こうした地道な継続が話題を呼び、コアなファンをつくっていく。
入社前はキャラクターたちと関わりのなかった木村だが、いまでは50回以上サンリオピューロランドに足を運んでいるという
「心を贈り、心を伝える」キャラクターに
かわいい、和む。でもそれだけではない。進化したキャラクター像が、現代は求められている。ハローキティのキャラクター戦略を担う木村はどう考えているのだろうか。
「家族とサンリオピューロランドに行ったとか、地方に行ってキティのお土産を買ったとか、そういう誰かの記憶の中にいて、人と人との間にキャラクターが介在していることを望んでいます。サンリオの『Small Gift Big Smile』という企業理念の、“心を贈り、心を伝える”という考え方の通り、キャラクターがいることで話が広がったり、好みがわかったり、人々が仲良くなるためのものでありたい。キティももっと、人々の日常の中にいるようなキャラクターを目指したいと思っています」
YouTubeという最もグローバルなプラットフォームに、誕生から46周年を迎えた、ハローキティが乗り込んだ理由。そこにはもっと多くの人々の日常に存在することで、人と人との間を取り持ち、自然と繋がっていくような関係性が、地球規模で考えるべきのものごとにも良い影響を与えていく。そんな思いがあった。
「YouTubeを拡大し、より良い未来について考える仲間を増やしたい」と語る木村。最後にビジネス上でのハローキティのライバルを尋ねると、こう答えた。
「キティには、そういう敵視した感情はないですね。それより一緒にやろう、と異色のコラボはどんどんしていきたいです」