日本政府が他のどの国よりも積極的にトランプを持ち上げてきたことを考えれば、皮肉とも言えることだ。安倍晋三前首相は2016年11月、トランプの電撃的勝利から9日後にニューヨークのトランプタワーへと駆け付け、勝利後のトランプと会談した初の国家首脳となった。
安倍はそこから今年9月16日の退任まで、民主主義国家でトランプと蜜月関係を築いた数少ない(あるいは唯一の)首脳であり続けた。
トランプが環太平洋パートナーシップ協定(TPP)から脱退したことは、安倍にとって大きな痛手だった。安倍はTPP参加に向けて自民党を説得するために膨大な政治資本を投じていた。また、トランプの貿易戦争は日本の経済界に打撃を与え、金正恩への奇妙な「愛」は北朝鮮にとって核開発強化の隠れ蓑となり、トランプは日本政府から米軍駐留経費として年間80億ドル(約8400億円)をゆすり取ろうとした。
安倍は辞任理由を健康問題によるものだとしているが、トランプよりもはるかに低い支持率や、「アベノミクス」を阻害したトランプの貿易戦争の余波が一因となった可能性は排除できない。
そして今、菅義偉首相の“新”政権は、トランプと「ブロマンス」を築いた安倍の過ちの後始末を強いられている。
もちろん、菅自身も安倍の従順な官房長官としてその一端を担っていた。また、日本の首相は、日本防衛を担う米国と良好な関係を保つほかに選択肢はないとしばしば感じることも確かだ。だが菅が政権の地盤固めを進める中で、ジョー・バイデンの米大統領就任が決まったことに感謝しているのは間違いないだろう。
長年にわたり多国間主義の立場を取ってきたバイデンは1月の就任後、米国を即座にパリ協定へと復帰させる意向だ。また、TPP復帰を検討し、その範囲を当初の12か国から拡大させる可能性も高い。韓国やインドネシア、フィリピンなどを参加させられれば、それは中国にとって最大の悪夢となる。バイデンは日本を従属国ではなく、大切な友として扱うことだろう。