では、新型コロナウイルス感染症のワクチンについて過度に楽観視しないようにするにはどうしたらいいのだろうか。
そのためには、公衆衛生に関してメッセージを発信するときや、人と人が交流するときなどの場面で、「フレーミング効果」を利用し、ソーシャル・ディスタンシングとマスク着用についての私たちの会話を変えるといい。フレーミング効果とは、問題に関する情報がどのようにフレーミングされるか(どのようなかたちで表現されるか)によって、人間の決断が左右されることを指す。
これまでは、ソーシャル・ディスタンシングやマスク着用などはその場しのぎの対策であって、我慢が必要なのは効果的なワクチンが開発されるまでだと、暗黙のうちとはいえフレーミングされてきた。問題は、こうしたフレーミングそのものが、過度な楽観論が生まれるリスクを増大させてきたかもしれないことだ。
そのかわりに我々は、「ソーシャル・ディスタンシングとマスクの着用は生活の一部として欠かせない行動であり、それはワクチンが完成したあとも続く」とフレーミングすることができる。楽観バイアスと、ワクチンをめぐる知識格差があるなかで、公衆衛生当局はこうしたフレーミングを活かしてクリアなメッセージを伝えることができる。
つまり、「新型コロナウイルス感染症のワクチンが開発されたら、それを機にソーシャル・ディスタンシングとマスク着用などの行動をやめるのではなく、さらに責任をもって実践していくべきだ」という、一見逆に見える明確なメッセージだ。
公平を期すために言うと、新型コロナウイルス感染症のワクチンについてそれぞれの人がどう見るかを左右する要素はこれだけではない。心理的な現象としての楽観主義は、身を守るすべにもなる。自尊心を保ち、危険に直面したときにそれを乗り越える力を強化することができるからだ。
そうは言っても、安易な楽観バイアスは持たないようにする必要がある。そうすれば、ワクチンという手段を活かして、一刻も早いパンデミックの終息という最終的なゴールにたどり着きやすくなるだろう。