ビジネス

2020.11.10

山極寿一x石川俊祐 大切なのは「良い問い」があるかどうか


ディベートではなくダイアローグ


石川:私は食から組織作りまでデザインの対象とする分野が本当に様々なのですが、ぼくの役割はある意味で「素人」の視点を投げかけることだと思っています。パートナーとなる事業会社の皆さんは、その道のスペシャリスト。私たちデザイナーが専門家だからこそ気がつかない疑問を無邪気に投げかけていくことで、それまで埋もれていた課題に一緒に気がついていくことができると思っています。

山極:日常から引き離してくれる存在は絶対に必要。個人レベルでいうと、昔はそれが文学や冒険だったんです。旅行してもスマホばかり眺めていたら、風景と一体化する体験がない。日常生活の延長なわけですよ。

石川:日常生活の中で違和感に気がつけるようになるための筋力を鍛える良い方法はありますか。

山極:テレビを観ながら悪口を言うと言うのが良いですよ(笑)。学生によくやらせていました。変に納得をせずに、重箱の隅を突くようにツッコミを入れていく。

石川:自分の思い込みや偏見を含めて客観視し、俯瞰する力に変わっていく瞬間がありそうですね。

山極:それも訓練だと思ってやったらダメ。面白おかしくやらないと身につかないし、やろうという気にならない。酒でも飲みながらテレビをみて、「こいつアホやなあ」とやるのがちょうどいいんです。

石川:ある意味、自分自身との対話ですね。

山極:そう。そして自分の研究上での発見に対してもやるわけです。これはディベートではなくてダイアローグ。目的は自分の発見を相手に認めさせるんではなくて、発見を叩き合って価値を変えていくこと。だから共同作業であって、戦いではないんです。

石川:自分も相手も違うんだと言うことを前提に、他の人と話をしながら変わっていくというのが対話の醍醐味ですよね。

山極:話を始めたときと話の後で自分の考えが変わっているということにとても大きな価値があるんです。相手を説き伏せることが成果ではない。

モノから価値の創造へ


石川:なるほど。ところで人が共感する上で、先生は言葉がどのくらい大事だと思いますか。例えば組織の中でメンバーが目標を共有しやすくするために、理念などを言語化したりします。一方、人間はロジックだけでは動かないので、強制されてもうまくいかない。

山極:ロジックがどれくらい機能するかは、どんな集団に属しているか。どんな集団を作っているか次第と言えますね。人間の面白いところは、シーンによって能力を使い分けられることです。

石川:感情と論理の切り替えができる、と。

山極:例えばスポーツと株主総会。人間の集団だと言うところは一緒ですが、働く力が全然違います。スポーツの場合はプレイヤーのその場の直感が協調しあってチーム力が生まれる。これは体の同調や反応であって、事前に頭で考えて練習をしたからといってその通りにいくわけではないですよね。株主総会はその逆。頭に働きかけていく世界です。だからある場合では言葉が非常に大事ですし、ある場合はそうではない。
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構成=水口万里

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