フードポルノに釘付け? コロナと「スローエンタメ」の甘い関係

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「不安」がビジネスチャンスに?


新型コロナウイルスという言葉が世界中の辞書に載るずっと前から、不安障害の発症率はすべての世代で急激に上昇しており、特に若者の上昇率が世界中で高くなっている。2009年以降は、大学生が心配しなければならない疾患はうつ病ではなく不安障害となり、発症する学生は着実に増加している。米国大学保健協会の年次調査によると、前年に「極度の不安」を感じた学生は、2011年が50パーセントだったのに対し、2016年には62パーセントと大幅に増加している。

不安障害流行の兆しは以前からあった。パンデミックが発生する前から、安全ではないという理由で人の集まるコンサート会場や混雑した空港を避けたり、海外旅行に行かなかったりする人が増えていると報じられていた。「世界の不安定性」などを理由に、子供をつくらない人も現れている。

近年はこうした神経をすり減らした人々のおかげで、ときには「不安産業」とも呼ばれるセルフケア業界がさらに活気を呈している。現在、1000を超える瞑想アプリがつくられ、その中には1000万人以上にダウンロードされたものもある。

2017年、健康ビジネス業界には3.7兆ドルの売り上げがあり、その成長率は世界経済より高かった。急成長したものの中には、瞑想の授業、無重力スパ、赤外線サウナ、CBC(カンナビジオール)サプリメント、幻覚剤アヤワスカを用いた“トリップ”、ストレス発散の破壊セラピーなどがある。人々は平穏、静けさ、ある種の「毒素」の放出を約束してくれる様々なトレンドに飛びついている。

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「不安はいまや社会学的問題になりつつある」と、ニューヨーク・タイムズ紙の記者、アレックス・ウィリアムズは「プロザック(抗うつ剤)の国はいま、ザナックス(抗不安薬)の国へ」という記事で述べている。こうした不安は、「人騒がせなCNNの画像によって供給され、SNSを介して伝播していく文化的共通体験」になったとウィリアムズは言う。彼がこの記事を書いたのは2017年だ。コロナ禍以前から「不安産業」に需要があったとすれば、今後数カ月、あるいは数年でそれがどうなるかを想像してみてほしい。

人類史上でも特筆すべき不安定な時代と言えるいま、各企業がどんな対応をするか見守るのも面白そうだ。多くの企業が寄付をし、無利子ローンを提供し、「一緒にがんばろう」と表明している。そうしたことも確かに重要ではあるが、私たちひとりひとりのセルフケアを促進するためには、何も考えず、流れるように時間が過ぎていく8時間のチーズ動画のようなささやかなものを提供することも大切かもしれない。

だから、私たちもやってみよう。卵黄がしたたったり、タイルがこすられてきれいになったり、ノルウェーの崖のうえを列車が走ったりする動画を見たり、誰かの優しいささやき声に耳を傾けたりしてみよう。


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翻訳・編集=小林綾子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

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