ライフスタイル

2020.11.05 17:00

フードポルノに釘付け? コロナと「スローエンタメ」の甘い関係

Getty Images


そんな音を聞くと背中がぞくぞくすると言う人もいるが、心が落ち着くと感じる人も多い。ASMR愛好者を対象とした調査によると、98パーセントの人がASMRでリラックスできると答えている。82パーセントの人は就寝時に聞いており、70パーセントの人がストレスを抑制するのに使っている。
advertisement

事実、こうした動画が視聴者の心拍数に影響を与え、皮膚伝導反応を高めることがわかっている。グーグルトレンドの調査では、不安定で危険に満ちたこの時代に、世界中でASMRに関心を集まっているという。

日本の『テラスハウス』からも快感が?


こうした「不思議な快感を得られる」動画は、いま突然生まれたわけではない。様々な動画から似たような感覚を得たことのある人も少なくないようだ。デッキを高圧洗浄機で洗う、洗濯物をたたむ、ペンキを混ぜるといった退屈な作業を映した映像は、昔から多くの視聴者に気持ちの落ち着きと満足感を与えてきた。

null
Getty Images
advertisement

また、フードポルノも同じ快感を引き出す。想像してみてほしい。脂ののった胸腺の肉をナイフで切ると、透明な肉汁がしたたり落ちる映像を。チョコレートがかかったスポンジの表面に冷たいスプーンでひびを入れると、真ん中からチョコがゆっくりとにじみ出る。ブリュレされた風味のいいクリームの固い表面からカラメルがあふれる。

null
Getty Images

また一方で、スロー・エンタテインメントを見ることで「禅」の境地に近づく人もいる。ネットフリックスの隠れたヒット作、『テラスハウス』がいい例だ。このゆったりと話が進行する日本製のリアリティショーでは、カメラ慣れした6人のミレニアル世代の若者が一軒の家で同居生活をする。とはいっても、アメリカの『リアルワールド』のようなドラマ中毒の人が出てくる番組とは違い、『テラスハウス』のエピソードは日常生活と害のない会話で進行していく。

それぞれのエピソードは「クエーカー教徒の集会のように穏やかだ」とニューヨーカー誌のトロイ・パターソンは評している。

ストレスはあるがルームメイト同士の会話は好みでないという人には、編み物をする様子が4時間延々と映される『ナショナル・ニッティング・イブニング』や、薪を割ってくべる動画が6時間続く『ナショナル・ファイヤウッド・ナイト』、ベルゲンからオスロまでの7時間の列車の旅の動画などはいかがだろう。

いずれもノルウェー放送協会の制作だ(2012年に同放送協会は、ベルゲンからキルケネスまで海岸線を航行するクルーズ船にカメラを取り付け、その134時間の全行程をあまさず放送した。報道によると、ノルウェーの全人口のほぼ半数が視聴した時間帯もあったそうだ)。視聴者は好きなときに見て、飽きると消すといった効率的な見方をしていたらしい。
次ページ > 「不安産業」の行方

翻訳・編集=小林綾子/S.K.Y.パブリッシング/石井節子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事